「雪さん。その服どうしたの?」「これは…お返しに頂いたんです」
雪さんは笑顔で答える。
「そう…なんだ…」「水月さんは何を頂いたんですか?」
雪さんが私達を呼ぶ時は、『様』は使わないようにすることになっている。
「え! 私!?」
顔を赤くしながら下を向く。
「人形…」「あ…」
雪さんは、まずいことを聞いてしまったといった顔をする。
「気にしないで、貰った物は前から欲しかった物だから…他にも貰ったし…」
『他にも貰ったし…』を小声で言う。
「そう…なんですか…」
雪さんはホッと肩をなでおろす。
「さて、買い物でも行って来ようかしらね」
そう言って立ち上がる。
グラ…
あ、あれ…?
「水月さん…しっかりして下さい」
「え、水月先輩が倒れたんですか!」「お静かにお願いします…」
茜さんは手を口元に持って行く。
「ここではなんなので…」「そうですね」
茜さんと一緒にリビングに行く。
「いったい何があったんですか?」「それが雪にも何が何やら…」「そうなんですか…」
「はい…突然倒れられて…どうぞ」「あ、有難う…お兄ちゃんには連絡したんですか?」
茜さんはコーヒーをかき混ぜながら聞く。
「もし、連絡をしたら仕事など関係なく帰って来られるでしょうから…」「さすがに…それはまずいね…」
茜さんは苦笑いを浮かべる。
「ただいま〜!」「あ〜! やっと帰ってきた! ちょっと来て下さい!」
帰ってくるなり、茜ちゃんに引っ張られながらリビングに行く。
「いったい何なんだ?」「水月さんが倒れたんです!」
雪さんは真剣な顔で言う。
「本当か?」「こんなことを冗談で言えると思いますか?」「それもそうだな…」
「水月さんは、お部屋にいらっしゃいます」「ほら、早く行って〜!」
茜ちゃんに背中を押される。
「判ったよ…」
コンコン…。
返事なしか…。寝てるのか?
そっとドアを開けて中に入り、水月の所に行って覗き込む。そこには、水月の寝顔があった。
やっぱり、寝てるのか。そっとしといてやるか。
水月がゆっくりと目を開ける。
「あ、お帰り…」「ただいま。それにしても、驚いたぞ…」「うん…」「ゆっくりと休めよな」
部屋の出口へ向かおうとした時に、水月に服をつかまれる。水月の顔をみてふっと笑う。
「一緒に居てやるよ」「うん…」「じゃあ、少し寝た方がいいぞ」「そうね…」
「安心しろ、寝るまで一緒に居てやるから…」「寝るまで…なの?」「う…」
そんな事を聞かれても…飯だって食べないといけないし…風呂だって…。
「ごめん…困らせるような事を聞いて…」
弱々しい水月の手をそっと握り、水月の目を見る。水月は小さく頷いて目を閉じる。
『お食事を…』『そこに置いといて…』
テーブルを指差す。
『はい、判りました。何かありましたら、言って下さい』『その時はよろしくな』『はい、それでは…』
まさか、水月が倒れるとわな。そうだなよな、色々と大変だろうから、倒れても不思議じゃないか。
さて、俺は飯でも…あれ? 離れないぞ…おい!冗談はやめてくれよ。
水月の握った手を外そうとするが外れない。
目の前に夕食があるのに、食べれないのかよ。くそ〜! だが、あんまり騒ぐと水月が起きるし
目の前の夕食を見て、生唾を飲み込む。結局その日は夕食は食べる事は出来なかった。
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