ゆっくりと目を開けると、彼が窓辺に立っていた。
いけない、私…寝ちゃったんだ。
「ん? 起きたか。昨日は有難うな」「もう大丈夫なの?」「ああ、この通り」
彼はそう言って体を動かす。私はそれを見て、くすっと笑う。
「おはよう御座います」「おはよう、茜」「どうですか?」
心配そうな顔で聞いてくる。ニッコリと微笑みながら頷く。それを見た茜は、パッといつもの顔に戻る。
「今は何をしてるんですか?」「部屋で寝てるわよ。用心に越した事は無いから」「そうですね」
「水月先輩。コーヒーでいいですか?」「うん。お願い」「わかりました」
椅子に座り、何気なく天井を見上げる。
「どうしたんですか? 天井なんて見上げて?」
二つのカップを持った、茜が不思議そうに聞いてくる。
「ううん。何でもないわ」「そうですか…はい、先輩のです」「有難う」
茜からカップを受け取って少し飲む。茜は向かいの椅子に座る。
「水月先輩」「何?」「あとから、買い物に付き合ってもらえませんか?」「買い物? 別に良いけど…」
ちらりと部屋の方を見る。
「やっぱり、気になりますか?」
茜はニヤニヤしながら聞いてくる。
「べ、別に…」「顔、赤いですよー」「も〜茜!」
部屋で寝ていると、ドアが少し開いて閉じる。寝た状態からは、誰が入って来たのかはよく見えない。
しばらくして布団が盛り上がり、もぞもぞと動き出す。
な、なんだ!?
『彩様、何処に行かれたのですか〜?』
この声は、真那さんか。また、逃げてるのか〜……このふくらみは……。
バサ!
やっぱり…。
そこには、小さく丸まった彩が居た。それを見て頭を掻く。
またですか。
彩はしーっと口元に指を持っていく。
黙ってろって言われてもな〜。この前の事もあるし。
コンコン…。
『失礼します…』
ドアがゆっくりと開く。彩は完全に諦め顔になっている。だが、入って来たのは雪さんだった。
何故か二人揃ってほっと肩を撫で下ろす。雪さんはその光景を見て、首を傾げる。
「茜〜、これくらいでいいかしら?」「そうですね〜」
茜は買い物かごの中を覗きこむ。
「足りますかねー?」「もう少し、足しておきましょう。残ったら、食べれるし」「そうですね」
「そうでしたか…雪はてっきり…」「てっきりって…いったい何を想像してるんですか?」
雪さんはポッと顔を赤くする。
「どうせ!私とあんなことをしようとしてると思ったんでしょ」「はい…」
「いくらなんでも、こんなガキには手は出さないって!」「うがぁ!」「そうですよね」
雪さんは赤い顔しながら微笑む。
「ところで、何の用事で来たの?」「あ、そうでした!」
雪さんは思い出したように立ち上がり、俺の服に手をかける。慌てて、その手を振り払って部屋の隅に逃げる。
「ゆ、雪さん。子供の前で…」「え、雪は着替を…」「着替え…?」「はい…」
「まったく、何を考えてるのさ」「それくらい自分で出来るから…」「そうですか?」
雪さんは残念そうな顔をする。
「少し、後ろを向いてて下さい」「はい、判りました」
雪さんはそういうと後ろを振り返る時に、彩の目を手でふさぐ。
「うがぁ!何するのさ」「少しの辛抱ですよ」
ナイス!雪さん。この間に…。
着替えを済ませ、声をかける。
「雪はこれで失礼します」
雪さんは、着替えて服を持って部屋からでて行く。
「で、お前はどうするんだ?」「ここに居れば、奴も来ないから安心さ」
『あ、真那様。え、彩様ですか? このお部屋の中に…』「あんですと〜!隠れる場所…」
彩が隠れようと慌てふためいている所に、真那さんが入ってくる。
「彩様、こんな所にいらしたのですか。参りましょう」
真那さんは、彩を抱えて部屋から出ようとした時、何かを思い出したように振り返る。
「今度、このように匿うようなことをなさった時は…」
真那さんはそう言って、不敵に微笑んで部屋から出て行く。
今度は殺されるな…間違いなく。
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