朝起きて、何時ものように部屋から出る。雪さんが座っているのが目に入ったので、挨拶をする。
「おはよう」「あ、おはよう御座います」
雪さんは何時のように笑顔で挨拶をする。そんな雪さんが子供を抱えていることに気が付く。
「雪さん…それ…」「え、何を言ってるんですか? これはあなたの子供ですよ」
雪さんは、ゆっくりと子供を見下ろしながら言う。
「え、俺の…子供…?」「はい、雪とあなたの子供です」「え!」
俺は雪さんが何を言っているのか、さっぱり判らずにその場に立ち尽くす。
「どうしたんですか?」「本当に…俺の子供なのか?」「何を言ってるんですか? ご覧になって下さい」
雪さんは、子供を俺に手渡す。ゆっくりと子供の方に視線を下げて行く。そこにあった顔は…。
「うわ〜!は〜…は〜…な、なんだ今のは…」
あまりの出来事に跳ね起き、ゆっくりと辺りを見渡すがそこは自分の寝室だった。
何だ〜…夢か〜。子供が水月だもんな〜普通は驚くよなー。しかも…睨んでたし。
しかし、初夢がこれかよ〜。まあ、少しは良かったけどなー。
『そっちに行きました!』『ちょっと待って!』
ん? 何をやってるんだ?
部屋のドアを開けると、黒い物体が俺目掛けて飛んできて、その後ろを丸めた新聞紙を持った水月が走って来る。
な、なんだー!?
「覚悟!」「か、覚悟!?」
水月は思い切り新聞紙を振るが、黒い物体にはHITせずに俺の顔面にHITする。
「お、俺が何をしたんだ…」
その場に倒れる。
「あ、あは。あははは…待て〜」
水月はあどけなく笑い、何事も無かったように黒い物体を追いかける。
な…なんで、俺がこんな仕打ちを受けるんだ?
「うわ〜。鼻の頭が真っ赤ですよ。骨は大丈夫ですか?」「茜…何が言いたいのかしら?」
水月は怒りを押し殺した笑顔で、茜ちゃんの方を見る。
「頼むから、ゴキブリと間違えて殴るよ」「ごめん…」
「まー、俺だったから良いようなものの、他の人だったら…」「何が言いたいの?」「いえ…別に…」
「それについて、ゆっくりと聞かせてもらいましょうか〜? ん〜!」「いや、別に何も…」
「水月先輩」「何?」「出るんでしょ? 今度の大会」「もちろんよ!!」「燃えてますな〜」
茜ちゃんがそっ小声で言う。
『今度の大会は、急に決まったらしいんです』『急に?』『はい、そうなんです』
『それはですね!雪が頼んだからです』「うわ〜!ゆ、雪さん!いったいどっから?」
「そんな…酷いです。雪を幽霊みたいに…」「いや、そなんつもりじゃー」「どんなつもりなんですか?」
「それは…」「どんなおつもりですか?」
2人はずいっと顔を近づけてくる。
「さー、特訓を始めるわよ〜!」
水月はそう言って俺を引っ張っていく。この時の俺は助かったのか、それともそうで無いのか凄く複雑だった。
「今日はこれくらいにしときましょ」「うげ〜、当分はカレーを見たくないぞー」
そういいながら机にへばり付く。
「ご苦労様。これ、気持ちばかりだけど」
水月はすっと五万円を差し出す。それを見て目をぱちくりさせ、ゆっくりと指差して水月の方を見る。
「ずっと付き合ってくれたから、そのお礼みたいな物よ。今月はピンチなんでしょ?」
何度も頷く。
「残りは、本番のみね。やるわよ〜!」「がんばれよ〜」「任せといて!絶対に負けないから!」
「勝ってもらわないと、こっちの身がもたん…」「え? 何か言った?」「何も言って無いぞ」
「そう…」「な〜、もしも…もしもだぞ。負けたら…」「それはもちろん!」「もちろん?」
「特訓よ!」
それを聞いて机に頭をぶつける。
やっぱり…そうなるのね。頼む…今度は勝ってくれよ…じゃないと体が…もたん。
「今日は、私の手料理作ってあげるわね。何が出来るかは、出来てのお楽しみだけどね」
もしかして…。アレですか? 水月さん。
水月は嬉しそうに部屋から出て行く。それと入れ替わりに雪さんが入って来る。
「凄くお疲れのようですが、大丈夫ですか?」「ああ…何とかな。雪さん、何か疲れを癒す方法知ってる?」
「それでしたら、雪がいい方法を知ってます」
雪さんはそう言ってにこやかに微笑む。
「なら、お願いしようかな〜。で、どんなの?」「これです」
雪さんは謎の液体の入った、注射器を取り出して両手に持つ。
俺は、雪さんの肩に手を置いて雪さんの目を見つめる。
「雪さん…一つ、聞いてもいいか?」「はい? 何でしょうか?」「それ、誰に教えてもらったんだ?」
「メイド仲間の人ですよ。安心して下さい、とてもよく効きますから」
もしや…その人って。
「雪さん。その人って、赤い髪でリボンをして和服で、空とか飛んだりしませんよね〜?」
「はい、 その方ですよ。え、お知り合いなんですか?」
やっぱりか…。
「雪さん。今回は遠慮させてもらうよ」「大丈夫です!これは雪のオリジナルブレンドですから!」
オリジナル…ブレンド…ですか! あの方に教わって…その自信。ここは逃げるに限る!
部屋から出ようとした時に肩を掴まる。
「遠慮なさらずに、腕をお出して下さい」「べ、別に遠慮してるわけじゃ…」「いきます!」
プス
「ウギャー!」
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