渡せない物
机の上にある、綺麗にラッピングされた箱をじっと眺める。

遙…御免な…あの時、俺がもっと早く行ってれば…遙はあそこに居なかったのに…。

ベットの上で膝を抱え込む。

今日、遙が目を覚ます事を祈りつつ探したプレゼント。それは、テーブルの上にある。

でも…遙が目を開けてくれるという保証は何処にも無い。真っ暗な部屋で一人で、ただその箱を眺める。


一つの包みを手に取り眺める。

遙…今日は目を開けてくれるよね? だって今日は遙の誕生日なんだから…。

袋を開けて、中から一着の服を取り出す。

これ…遙が前から欲しがって奴だったよね。孝之とのデートに着て行きたいってよく言ってた。

その服を抱きしめる。

お願いだから…目を開けてよ…。それで、笑顔でこれを受け取って頂戴。そうじゃないと…私が…孝之を…。


スポーツバックを投げ捨て、ベットに倒れこむ。そのまま、カレンダーの方に顔を向ける。

今日はお姉ちゃんの誕生日なんだ…。もうそんなにたつんだね…。

しばらく、ボーとそのカレンダーを眺める。

お姉ちゃん…今日は目を開けるよね? いくらのろまでも…。今日はお姉ちゃんにとってすごく大切な日だもね。

お兄ちゃんと一緒に迎える、最初の誕生日なんだよ。だから、目を開けて皆で祝おう…。

ベットから起き上がり、着替えを始める。着替えを済ませて、紙袋を持って部屋から出る。


「遙…おめでとう…これ、プレゼント…」

何も反応しない遙の手にプレゼント乗せる。

「これを探すのな…かなり苦労したんだぞ…遙はこんなの好きだろ?」

反応が返ってこない事は判ったいる。でも…でも…。

目から涙が零れ落ちる。

「遙…何とか言ってくれよ…遙…じゃないと…俺…俺…」

遙の手を取って泣きだす。


お兄ちゃん…。

そっと、病室のドアを閉める。屋上の方に向かって歩き出す。屋上のドアを開けると、潮風が流れ込んでくる。

屋上に出ると、ポニーテールが風に靡かせている水月先輩が立っていた。

「水月先輩…」

水月先輩は、驚いた顔をしながらこっちを見る。

「茜…」「何をしてるんですか?」「病室…見てきたでしょ? だったら、理由はわかるでしょ?」

黙って頷く。水月先輩は海の方を向いて、また私の方を向く。水月先輩の目から光る物があった。

「これ…渡しそびれちゃった…」

水月先輩は、包みを取り出して笑う。

「それて…」「そう…遙へのプレゼントよ…」

水月先輩は暗い顔をする。

「遙…まだ、目を開けてくれないんだね…」「いくら…お姉ちゃんでも、のんびりし過ぎですよね…」

長い沈黙が続く。二人の間を潮風が吹きぬける。

「一緒に病室に行かない?」「いいですよ…」

二人で病室に行き、中に入る。

「孝之…」「速瀬…それに茜ちゃん…」

お兄ちゃんの頬には、はっきりわかる程の涙の跡があった。

「なあ、聞いてくれよ! 遙がな…遙が俺の手を握り返してきたんだ…」「え!?」「ほら…今だって…」

お兄ちゃん…おかしいよ…。手なんて全然動いてないよ…。お兄ちゃん…正気に戻って。

水月先輩がお兄ちゃんに近づき、ビンタを食らわせる。

「確りしてよ! 孝之がそんなじゃ…遙が可哀想よ…」

「だったら…俺はどうすればいいんだよ! なあ、速瀬! 教えてくれよ…」

お兄ちゃんは水月先輩の服を掴む。ただ、その光景を眺めることしか出来なかった。

水月先輩は、その手をやさしく外し、その手を握りながらお兄ちゃんの目をじっと見る。やさしく微笑む。

「孝之…ダメだよ。孝之は遙が目を覚ました時に、笑顔で迎えてあげないと…じゃないと、遙が可哀想だよ…」

お兄ちゃんはその場に膝をついて、何かブツブツ言っていて、床を叩いたりしている。

水月先輩はプレゼント置いて、そっとお姉ちゃんの髪を触る。

「遙…プレゼント、ここに置いとくね」

水月先輩は私の方を見て頷く。プレゼントを取り出して、同じ場所に置く。

「お姉ちゃん…おめでとう…」

目を開けないお姉ちゃんの顔を見る。水月先輩は私の肩にそっと手を置く。黙って頷いて病室を出る。


お互いに何も言わずただ駅に向かって歩く。水月先輩が呟くように言う。

「茜…」「何ですか?」「茜は、これからも孝之を見てられる?」「え!?」

水月先輩は立ち止まる。

「私は…」「大丈夫ですよ! お姉ちゃん、きっと目を開けますよ…きっと…」

「そうよね…遙は目を開けるわよね…」「じゃないと…お兄ちゃんが、可哀想ですから…」

そう言ってくるっと周って笑う。

きっと…目を開けるてくれる…信じてもいいよね…? お姉ちゃん…

ーENDー



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