別れ…そして
遙と話を終えて医局から出る。誰にも気がつれないように屋上へと向かう。

屋上に出ると、気持ちのいい風が私の髪を靡かせる。海が見るフェンスの所に歩いて行き、海を眺める。

しばらくそうして、おもむろに携帯電話を取り出して孝之達に電話をする。

孝之達は電話に出なかったのでメッセージを入れる。この時は、この方が良かったのかもしれない

もし、電話が繋がっていたら…。

しばらく空を見上げた後、庭園が見える場所に移動する。少しして、遙達が出てくる。

私はそれを見てポツリと一言呟く『幸せにね。遙』と。そして、ゆっくりと振り返り病院の中に入る。


柊町駅に行って切符を買う。別に目的の場所がある訳では無いので、ただ適当に買うだけ。

ホームで、電車が入って来るのを待つ。荷物は、財布などが入った小さな鞄が一つだけ。

電車がホームに滑り込んでくる。ゆっくりと立ち上がり、その電車に乗る。

電車はゆっくりと動き出す。私は、席に座りただボーと外の景色を眺める。

しばらくして、学校が見えてくる。次にあの丘も見えてくる。

そういえば、いろいろとあった場所だったわね。あの丘…。

外の景色も徐々に建物の数も減っていき、最後には田畑だけになってゆく。

さようなら、柊町…。さようなら、孝之…。頑張ってね、遙…。


「お客さん、終点ですよ」「すいません。すぐに降りますから」

車掌さんに言われて、慌てて電車を降りる。電車のドアが静かに閉まり、また来た方向へと戻っていく。

改札を抜けて、外に出てみる。そこは田舎町だった。

ここが、私の新たなスタートする場所になるのね。

自分に小さく気合を入れる。ここで、自分の気持ちにけじめをつける場所。ゆっくりと歩き出す。


数年後…。


ここでの生活にもなれ、平凡な日常を送っているある日のこと。部屋の掃除をしていると、ヒラリと何かが落ちる。

拾い上げてみると、自分の部屋に置いてきたはずの、あの写真だった。しばらく、その写真を眺める。

皆、元気でやってるかしら。きっとやってるわね。

ふっと笑みを浮かべる。そして、写真をテーブルの上に置いて、掃除の続ける。

すると、今度は前に使っていた携帯電話が出てきた。もうかけることも無い電話…でも、何故か捨てられなかった。

その側には、あの指輪が置いてある。するとつもりだったのに、これも捨てられず持っている。

おもむろに、携帯の電源を入れる。そして、メモリーを見る。一つだけ消せずに残っている番号が一つ。

とても懐かしい番号。そして今では…。電話を手に取り、その番号に電話をする。

「はい、もしもし…」「あ…」

声を聞いて、慌てて切ろうとしたが、思いとどまる。

「誰ですか?」「私…」「え!速瀬? 速瀬なのか?!」「うん…」「今、何処に居るんだよ!」

「ごめん、それは言えないの…」「ああ、判った。何か用事か?」「うん…皆、元気?」

「何だよ。突然、電話してきたと思ったら、そんなことか?」

自分でも、何を聞いてるんだろう思う。

「まあ、元気だぞ。知ってるかもしれないが、茜ちゃんが…」「知ってる。オリンピックに出たんでしょ」

「凄いよな」「そうだね」「ん? 嬉しくないのか?」「ううん。嬉しいかったわよ…」

涙がポロポロと零れ落ちる。

「どうした? 泣いてるのか?」「馬鹿、目にゴミが入っただけよ!」

強がり言う。

「そうか、なら良いけどな」「あの…」「ん? 何だ」「今度、会えない?」「え!」

どちらも何も言わなかった。先に話し出したのは、彼からだった。

「俺は別に良いぞ。だったら、孝之達にも…」「待って!」「え!」「2人で会いたいの…」「2人で?」

「うん…」「2人でか〜、速瀬が良いんだったら良いぞ。でも、俺が襲うかも知れないぞ」

彼は悪戯ぽく言う。それを聞いて、私はクスクスと笑う

「あ〜、信じてない!俺だってなー」「うん…それでも良いよ…」「へ…!」

しばらく沈黙が続く。そして、私が静かに切り出す。

「今度の日曜日、大丈夫?」「日曜日? ちょっと待ってくれ」

綺麗なメロディーが流れる。

「大丈夫だ!」「仕事なら、無理…」「無理なんかしてないって!もし、仕事でも仮病でも使って行くって」

「ふふふ…判ったわ。お昼に、駅で待てて」「判った。昼だな」「うん。そう」「またその時にな」

「うん、バイバイ」「またな、何かあったら電話しよ」「うん、そうする。またね」「おう!」

受話器をそっと置き、胸に手を当てる。

「さ〜、掃除の続き!続き!」

そう言って掃除を始める。

ーENDー



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