水族館
車は、駐車場に入ると大きくぐるりと回った後、枠にぴったり収まる

「うん!我ながら完璧ね!」

何が完璧なんだよー!こっちは、死ぬかと思ったんだぞ

「それより、これほどいてくれよ〜」「あ、そうね」

ほどいてもらった後、外にでて大きく伸びをする。この時、命の大切さを実感する。

中に入ると、水月はすごく嬉しそうにはしゃぐ。

「イルカショーは何時からなの?」

パンフレットで時間を調べると、1時からだった。

「え〜、そんなにあとなの〜」「まー、見てればすぐに時間になるさ」

「それはそうだけど…」「楽しみを最後にとっておくってのも、いいもんだぞ」

水月はしばらく考えて、小さく頷く。引っ張られながら、見て回っている水月はまさに子供のようだった

こんな水月を見るのは初めてだな。着て良かったかもな…あの運転が無かったら、さらに良かったけどな

一通り見て回り、少し時間があるのでレストランで昼食をとることにした。

ここのレストランは、イルカのいる水槽が見えるようになっている。

水月はイルカをじーと眺めている。よっぽど好きなんだなと考えながら、水月を見ていると料理が運ばれてくる。

「ここってすごいよね」「ん? はにがだ?」「だって、ここからイルカが見えるのよ」「そうだな」

「何よ〜!その、そっけない返事はー」「だって、俺は興味ないから」

そう言って黙々と、料理を食べ続ける。

水月は、ちょっとむくれながら食べ始める。

「ねー、このチケットの番号って何かしら?」「…番号?」

指差された場所を見てみると、確かに大きく『91番』と『32番』と大きく印刷されていた。

「何だと思う?」「そうだなー。歳じゃないか?」

軽い冗談で言うと、水月はナイフを俺の方に向ける。

「冗談だって…。これによると、イルカショーで何か抽選があって、この番号あった人に何かいいことがあるらしいぞ」

「そうなのー。いいことって何?」「そこまでは書いてない!」

俺からパンフレットを取り上げ、自分でも確かめてやっと納得したらしい。

「お、時間だぞ」「あ、そうね」

二人で店を出て会場に向かう。会場はすごい人でごった返していた。

それでも何とか二人分の席を確保して、飲み物を買いに行く。

そこでもかなり時間を取られ。買って帰り座るとちょうど始まる。

ショーが中盤に差し掛かった頃、ステージ上に大きな的が出てきた。

『今から、抽選を行いたいと思います。チケットをご用意ください』

チケットを取り出して、水月にどっちにするか聞くと、91番の方を取った。

抽選の仕方は、イルカが投げた矢が刺さった番号のが、当たりといった単純なものだ。

抽選が始まり、会場は静まり返る。

『90番の方はいらっしゃいませんか?』

そう言って、ステージの上にの女性が会場を見渡す。どうやら、5人の人をステージにあげて何かするらしい

結局、俺たち二人は当たらないまま最後の一人になる。最後の一統が投げられる。

その矢は32番に突き刺さる。水月は俺の方を見るて『良かったね』と小さく呟く。

黙って、水月のチケットと自分のチケットを取り替えて、水月に『行ってこい』と言ってやる。

「でも、これは…」「いいから、行ってこいよ。急がないと、別の人が選ばれぞ!」

水月は小さく頷き、走って行く。

これでよかったんだよな。あんな顔を見せられたら、譲らないわけにはいかないよな

『ご当選、おめでとうございます。皆様には、これからイルカちゃん達に、餌あげなどやってもらいます』

要するに、飼育係の人がやることが体験できるってことらしい。

水月は照れくさそうにやっている。水月は粗品を貰い、嬉しそうに戻ってくる。

「楽しかったか?」「ごめんね」「気にするなって、俺は別に気にしてないから」

水月は、ポッと頬を紅くして下を向く。そのまま、横に座って残りを見る

ショーが終わり、会場から出ようとした時に係りの人に呼び止められて、数枚の写真を渡される

その写真は、先ほどの水月が写っていた。

「これ、貰ってもいいんですか?」「はい、それはサービスですから」

その写真を水月に渡して、お礼を言ってから会場から出る

「買い物して、帰るか〜」「買い物?」「いいから、行くぞ!」

水月を引っ張り、ショップに向かう。店の中である物を一人で探す。

お!これだー。でも、やっぱりちょっとデザインが違うな…。

それを一つ手に取って、水月の前に差し出す。

「イルカのマグカップだ」「え?」「前に言ったろー。同じのは無理かもしれないけど、今度は俺が買ってやるって」

水月はあ!と驚いた顔をする。どうやら思い出したらしい。

そっとそのマグカップを受け取り、じっと眺める。俺はどれにしようかな〜?

マグカップを眺めながら悩んでいると、水月が一つのマグカップを取る。

「これなんか、いいと思うわよ」「ラッコ…俺は、このシャチなんか…」

「これで決定ね!」

水月は俺の発言などまるで、聞く耳を持たないといった感じで、すたすたと二つのマグカップを持ってレジに行く

その後も、ぬいぐるみなどいろいろと買った。

「どうだ、楽しかったか?」「うん、とっても楽しかったはよ」

水月はにっこりと笑う。その笑顔を見て俺も微笑む。

「暗くならないうちに、帰りましょう」「そうだな」

水月は気合を入れなおしている。そんな水月を何とか説得して、自分で運転して帰る。

信号で止まった時に水月を見ると、さっき買ったイルカのマグラップを抱いたまま眠っていた。

ふーとため息をついて、青になるのを待って走り出す

ーENDー



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