プロポーズ
「悪いな、二人とも…」

「そんなに気にしなくてもいいですよ」

二人に手伝ってもらいながら、飾り付けなどを済ませていく。

黙々と作業したおかげで、予定より早く出来上がった。

「なかなかだな」

「当然です!私がやったんですから!」

茜ちゃんは胸を張る。

涼宮は小さな声で 「私も頑張ったんだよ…」

「二人とも有難うな」

「いいえ〜、困っときはお互い様ですから〜…」

なんだか茜ちゃんの目は、見返りを求めているように見る。

「そうだよー。また何かあったら言ってね」

「その時はまた宜しくな」

「うん!」

「はい!それでは、そろそろ帰りますね」

二人を見送って、しばらくボーっとしていると水月がやって来た。

「へ〜、これ一人でやったの?」

「いや、涼宮と茜ちゃんに手伝ってもらったんだ」

「遙…茜…」

水月は小さく呟く。

「ま〜、座れよ」

「うん…」

水月と一緒に料理を食べる。もちろんこれは俺の手作りだ。

料理を食べている時の水月はすごく楽しそうでもあり、悲しそうでもあった。

料理を食べ終わり、そっと水月の所に行き、小さな箱を水月の前に差し出す。

水月は少し驚いた様子でそれを受け取る。一度俺の顔を見て箱を開ける。

中身を見て、俺の顔をじっと見る。

「結婚…しよう…」

水月は俺に抱きついてきた。そして、そっと耳元で『有難う…嬉しい…』と呟く。

しばらくそのままでいた。どちらかでもなく離れ、水月が小さな声で言う。

「あの日のこと覚えてる?」

「あの日?」

「そう、好きだって言ってくれた日のこと…」

「忘れるわけないだろ…」

「それもうだね…」

水月は天井を見上げながら話し出す。

「前にも何回か電話したんだよ。でもね、どうして言えなくて…あの日はなぜか言えたの… そうすごく素直に」

確かに、あの電話の前にも何回か無言電話があった。

でもそれは、水月だとうすうす気が付いていた。

「ずっと私は一人なんだって勝手に思っちゃって…でも、そうじゃなかったんだよね。 こんなすぐ側に、私のことを支えて、励まして、見守ってくれてた人が居たんだよね」

すっと俺の方を見る。水月の目には涙がたまっていた。

「一人に初めて判ったの…ずっと自分ひとりやって来たつもりだったけど、違うってことが… 有難うね…これかも宜しくね」

水月は泣くのを必死でこらえている。

そんな水月をそっと抱きしめてやると 今まで我慢していたものが、あふれ出るかのように泣いた。 しばらくして、水月は離れて小さく呟く。

「孝之に会わないといけない…」

その発言に驚く。

「本当に大丈夫なのか?孝之達に会っても…。相当つらいことだぞ」

「うん、判ってる…。でも何時かは会わないといけないんだったら…」

「早いほうがいい…か?」

水月は黙って頷く。

「判った。もう俺は何も言わない!」

「有難う…」

ふと時計を見る。

「あ、もう帰らないと終電に…」

俺が言い終わる前に水月は俺に抱きついてきた。

「今日は…帰りたくない…」

「……泊まって行くか?」

「うん…」

この日を境に水月はよく俺の部屋に泊まるようになった。

後日、孝之たちとの再会を果たす。これはまた別のお話

ーENDー



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