恩返しなの? 序章

私の前を何人の人々が通り過ぎて行く。雨が降り始め、人々は急ぎ足でかけて行く

私は、何も出来ずにその光景を見つめ続ける。不意に雨がやんだ。正確に言えば、私の上に傘が広げられている

「大丈夫か?」

自分は濡れながらも、声をかけるてくれた人はニッコリと笑う。私は、おどおどしながら頷く

「これ、食べるか?」

その人は、そういって一切れのパンを差し出す。私は、おどおどしながらパンを見詰める

「大丈夫。毒なんて入ってないから」

そういって優しく微笑。そーっと、パンを取って食べ始める

「悪いな。昼残りで…」

私はプルプルと首を横に振る

「このままだと、可愛そうだな…」

ゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡し始める

「お、いい場所があった!」

そう言い、私を抱え上げて屋根のある場所まで運んでくれる

「これで安心だな。ごめんな、本当だったら家に連れて帰ってやりたいけど…」

その優しい人は、悲しそうな顔をしながらその場から去って行く。私は、その人が見えなくなるまでずっと目で追い続ける

顔を忘れないためかのように…


ピピピ……

手探りで目覚ましを探し、ポチッとボタンを押してパタッと倒れる

「スースー…スースー…」

ん?寝息が聞こえる…?

ぼんやりとした視野で横を見ると、そこには見ず知らずの女の子が居る

これは夢だと思い、目を瞑り再度見てみるが、確かにそこに存在している

ていっとベットから蹴落とすと、顔面から床に落ちる。涙目で、鼻の頭を抑えながら起き上がる

「痛いですよ〜」「あ、ごめん…」「うう…鼻が真っ赤です…」「とにかく座れ…」

正座で座り、こっちをじっと見る

「あんたは誰だ?」「私は…私は…えーと…」

あはははっと笑いながら、頬をポリポリとかく

「どうやって入った?」「それは…」

また、あはははっと笑いながら、頬をポリポリとかく

「だー、何で俺の横に寝た?」「それは、寒かったから…」

しらーっと女の子を見と。すっと視線をそらす

怪しい…怪しすぎる

「とにかく、出てけ!」「えぇ…」

オーバーアクションで驚く。それを呆れ顔で見る。その時、時計が目に入る

「やべ〜!遅刻だ〜!」

ドタドタと支度をする

「いいか、絶対に出てけよ!良いな!」

それだけ言うと、大急ぎで家から出て行く


電柱に手を付きながら、肩で息をする

「どうやら、間に合ったみたいだな…」「おはようございます…キャー!」「どうした?」

振り返ると、顔にスポーツバックが迫ってくる

「な、何〜!」

避けるなど出来るはずも無く、顔面でスポーツバックを受け止める羽目になる

「ぐぉ…」

これをぶつけた張本人は、その数メートル手前で躓いて転んでいる

「ごめね…」

申し訳なさそうに亜紀は言う

「わざとじゃないんだから、別にいいって…」「でも…」

この子は『山宮亜紀』友達以上恋人未満の子である。一度、周りの勧めで付き合ってみたが、しっくりこずに今の関係に落ち着いた

「今日は何かあるのか?」

手に持っているスポーツバックを見ながら言う。バックは、俺が持って歩いている。また、ぶつけられたらたまらないからだ

「うん…体育があるの…」「体育がね〜。それで、こんなに重たいバックが必要だと…」「うん…」

ピシッと額にデコピンをくらわせる

「いた…」「何でこんな大荷物になるんだよ?」「今日ね…体操をするの、だから…」

体操…?ラジオ体操か?

「そんなんじゃないよ〜」「エスパーか?」「ううん。違うよ…。何となく、判ったんだよ」

「そうか…」「うん。あ、覗いたら駄目だからね!」

亜紀はメッとこっち見ながら言う

「俺がすると思うか?」「うーん……そうだよね」

何だ、今の間は?妙に気になる


教室に入り、自分の席に座る。席は一番後ろの窓際なので、この時期はポカポカとして気持が良い

「おはよう〜!ねーねー知ってる〜?」

朝っぱら、元気で満ち溢れた顔をしているこいつは『阿藤奈美』事情、情報通らしい

いつも、何処からかネタを仕入れてきて、俺に聞かせる

「どうせ、デマだろ?」「聞きたい?聞きたいわよね?そうよね。この奈美様の情報だからだなんて…」

聞きたいなんて言った覚えは…

「今日ね。このクラスに転校生が来るのよ!」「マジで!阿藤、それ本当か?」「もちよ!」

急に割り込んで来たこいつは『宮沢享』いつも奈美の情報に振り回されている

「はい。情報料千円ね」「ほい、千円」

良い金づるになっているってことも付け加えておく

「全員席に着け〜」「またあとでね」

奈美は、席に戻って行く。

「まず最初に、転校生を紹介する」

それを聞いて、クラスの男性陣がざわめき立つ。興味が無いので、窓の外を眺める

「入っておいで…」

ゆっくりとドアが開いて、女の子が入って来る。当然、クラスの男性陣は盛り上がる

チラッとだけ見た時に目が合い、ニッコリ笑いながら手を振ってきたので、一様振り替えす

あれ?あの子どこかで…?

「えっと、席は…あそこに座って」「はい」

廊下側の一番後に座る

「出席を取るぞ〜!」


HRが終わり、奈美がニヤニヤとしながら現れる

「見たわよー」「な、何をだよ?」「手なんて振っちゃって…これは、親密な関係ね」

「な、何と!それはまことか!」「まこともまこと、そうじゃなかったら手なんて振らないって」

「おお〜!さすが、奈美さん」「情報料五百円ね」

阿保らしい

「ところで、何処で知り合ったの〜?」「はぁ…?」「正直に言いなさ〜い。楽になるわよ〜」

「本当にしらね〜って。手を振られたから、振り替えしただけだ」「本当〜?」

奈美はしらーっとこっちを見る

「気になるんだったら、本人に聞いてみろ!」「何ですか?ご主人様…?」『ご、ご主人〜!』 

俺、奈美、享の三人ではもる

「あの…どうしたんですか?ご主…もがもが…」

口を押さえながら抱え上げ、そのまま教室を後にして一気に階段を駆け上がる

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