お雛様
「ちょっと、遙。それって本当なの?」「う、うん…」

涼宮はおずおずしながら頷く。

「別に良いんじゃないか? 女の子だし」

そう言って弁当のおかずを食べる。

「それは…そうだけど…」「茜ちゃんは何て言ってんだ?」

「えっとね…『お姉ちゃん…もう良い歳なんだから、飾るやめてよね』って…」

茜ちゃんらしい台詞だな。

「ところで、どれ位の大きさのを飾ってるんだ?」「そんなに大きくないよ。二十段くらい」

涼宮はニッコリと笑いながら言う。思わず卵焼きを落とす。

「あ〜!俺の卵焼きがー!」「それだったら、私のあげるね。はい」

涼宮は自分の卵焼きを俺の弁当箱に入れてくれる。

「ねえ、遙…誰がやろうって言い始めたの?」「え、お母さんだよ」

それを聞いて水月はヒクヒクと笑う。

「へーそうなのか。俺は会ったこと無いからどんな人か知らないけど、きっと優しい人なんだろうなー」

「うん、とっても優しいよ」「お父さんは、何て言ってるの?」「え、お父さん?」

涼宮は少し考える。

「楽しんでるよ」「あ、そう…」「なあ水月…さっきから、やめさせようとしてように思えるんだが…」

「え!ぜ、全然そんな事は無いわよ…」「ふーん…」

しらーっと水月を見る。

「もしかして、家に飾ってあるんじゃないかー?」「え、何が?」「お雛様…」「え、水月も飾ってるの?」

涼宮は嬉しそうに聞く。

「む、昔は飾ってたわよ…でも今は…」「そうなんだ…やっぱり変だよね…」

涼宮はしゅんとする。

「なあ、水月?」「何?」「お雛様ってたまにだしてあげないと、カビが生えるらしぞ」

「え、そうなの?」「ああ…テレビで言ってたぞ。でも、涼宮の所は大丈夫だな」

「家も…大丈夫よ」「ん?今何か聞こえたな〜。家も大丈夫って…」

しらーっと水月を見る。

「言ってたじゃない、カビが生えるって…お家のお母さんがやってるのよ」

「まあ、そうって事にしといてやるよ。今日さ、水月の家に行ってもいいか?」「え!?」

「言っとくが、お雛様が飾ってあるかどうかを見に行くんじゃないからな。勉強をしに行くんだ!」

「何も家でしなくても…ほら、遙の家でも…」「水月…ごめんね。今日は無理なの…」「え…!?」

「今日ね、孝之君の家で勉強を教えるから…」「だったら、孝之の家で…」

「二人の邪魔をするのか? それにだ!勉強が終わったら二人の時間が始まるんだろうし」

それを聞いて涼宮は顔を真っ赤にする。

ガン!

「いってな〜!」「馬鹿なことを言った当然の報いよ!」「家に行っても良いのか?」

「良いわよ!でも、条件があるわ」「条件? 何だよそれ?」「私の部屋以外に入らない!」

水月は真剣な顔で言う。

「それだけは困る」「どうして?」「トイレに入れないからだ!」

ガン!

「いった〜!何で殴るかな〜」「馬鹿な質問をした罰!」「判ったよ。それより、水月は食べないのか?」

「え?」「昼飯…」「あ〜!」

その時、無常にもチャイムが鳴り響く

ーENDー



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