盲腸
何も無いただ白いだけの壁…しいて云うのなら、消毒液の匂いが妙に鼻に付くらいだ

開け放たれた窓から見える少しの景色…。外では、子供の患者だろう。楽しそうに遊んでいる

今の状況では、ああして外で駆け回ることも出来ない

コンコン…

「はーい!」

ドアがゆっくりと開き、見慣れた顔が入って来て笑う

「ヤッホー!元気ー?」「馬鹿かお前は…この状況で元気なわけ無いだろうがー!脳みそ腐ったか?」

ビュッ! ミシ…

顔面にソフトボールがめり込み、ポロリとベットの上に落ちる

「何よ、人が元気付けてあげようと思ったのに…」「これが…元気付けか…ガク」


「行事予定は今言ったので全部よ」

水月は林檎を手に取って鮮やかにむく。林檎の皮を切らずに最後までむいてしまう

「へーうまいもんだな〜。俺はってきり指を切ったり…」

水月はニコニコ笑いながら、果物ナイフを俺の方にピタピタとあてる

「むかれたいの…?」

慌てて首を横に振る

「はい…」

水月は、綺麗に切り分かれた林檎を皿に載せて俺の前にだす。その林檎には爪楊枝も刺さっている

「もうじき…テストだな」「そうね…」

水月は林檎を食べながら答える

「えっと…退院する頃がちょうど、テストの時期ね」「な、なにー!」

最悪だー。赤点確実だー。

「こんな時期に、盲腸になった自分を呪いなさい」

水月は、愉快そうに笑う

畜生…嬉しそうに笑いやがって…。俺の身にもなてみろー。

水月は、ふっと笑う

「大丈夫よ」「え!?」「はい。これ」

水月は一枚のプリントを俺に渡す。渡されたプリントを見てみると、テスト範囲と日付がが書いてあった

水月の方を見ながらプリントを指差す

「私に感謝しなさい」「水月様。有難う御座います…」

大げさに手を合わせる

「だけどよー教科書とか…」「なら、心配いらないわ」

ドン!

水月は、教材一式を食事をする時に使う机の上に置く

「水月さん…」「どこからだしたかなんて、古典的な質問は却下よ!」「は、はい…」

水月はにっこりと笑う

「さー始めましょうか」「何を…?」「『何を…?』じゃないわよ。勉強よ。勉強!」「何〜!」

水月はキッとこっちを睨み付ける

「赤点と今から頑張るのとどっちが良いの?3、2、1、はい!」「や、やります!」

「今から、私のことを速瀬先生と呼びなさい」「何で…面倒くさ…」「赤点でも良いの…?」

水月の目が怪しく光る

「だー解りました。速瀬先生、教えて下さい!」「それじゃあ、いくわよー」

この日から、水月いや…速瀬先生との勉強付けの日々が続く。おかげでテストでは赤点は免れた

ーENDー



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