目撃
とある日、近道にラブホテル街を通り抜ける

あんなまり通りたくない場所よね

昼間だというのに、独特の雰囲気がそこにはある。急ぎ足でそこを抜けようとした時、見てはいけないものを目撃にする

え!?どうして…な、何で…


壁に凭れ掛かり、空を見あげる

『お疲れ様でしたー』

茜が出て来てすぐに私に気が付き、こっちにやってくる

「どうしたんですか?」「茜…ちょっと良い?」「はい…」

茜は、何だろうといった顔をしながら頷く


「何ですか…?」

コーヒーカップをそっと置く

「茜…しっかり聞いてね…私、見たの」「何をですか?」

ゆっくりと目を閉じて、ゆっくりと開ける

「孝之と遙が、ホテルから出て来る所をね…」「え!?」

茜は椅子から落ちそうになるが、何とか踏みとどまる

「ま、また…そんな冗談を言わないで…」「茜が信じたくないのは良く解るわ。でも…事実なの」

茜は机を叩きながら立ち上がる

「そんなの嘘です!貴女は、私から鳴海さん…いや、孝之さんを奪いかいしたいから…そんな嘘を言ってるんです!」

「茜…私はそんなつもりじゃあ…」

茜はキッとこっちを睨み付ける

「じゃあ、どんなつもりだったんですか?」「そ、それは…」「話が済んだようなので、これで失礼します!」

茜は鞄を持って店から出て行く

私…何をやってるんだろ。親切心のつもりが、逆になったじゃないのよー。私はどうしたら良いのよー!

机に両肘をついて、頭を抱え込む


夕食の固唾けを済ませて、孝之さんの後ろに立つ

「孝之…さん」「ん…?どうした、改まった顔して?」「お話があるんですが…」「何だい?」

両手をぐっと握り締める

「今日…水月先輩に会いました…」「水月に…元気だっか?」「はい。凄く…その後、水月先輩から…水月先輩から…」

下を向き、下唇を噛んで必死に涙をこらえる

「お姉ちゃんと孝之さんが、ホテルから出て来るところを見たって…」「え!?」

孝之さんは驚いた顔でこっちを見る

「う、嘘ですよね…水月先輩の見間違えですよね…」

涙を流しながら顔を上げる。孝之さんはすっと視線をそらす

「嘘だって言って下さい…じゃないと、私…私…」

その場に泣き崩れる。それでも、孝之さんは何も言わなかった


「水月先輩…」『茜…ごめんね。今日のこと…』「いえ…もう良いんです」『え!?』

「今から、そっちに行っても良いですか?」『う、うん…私は別に良いけど…何かあったの?』

「今から行きますから…」『茜…ちょっと!茜…』

受話器を置き、電話ボックスから出てしばらく空を見上げ、大き目のスポーツバックを持って水月先輩の家に向かう


ピンポーン!

『は〜い!』

ドアが開き水月先輩が顔をだす

「水月…先輩…」

それまで抑えていた物が一気に溢れだし、なきながらスポーツバックを放り、水月先輩に抱きつく

「あ、茜…どうしたのよ…」「私…私…」

水月先輩はふっと笑い、そっと頭を撫でくれる

「茜…茜の気持ちが落ち着くまで、ここに居て良いわよ」「水月先輩…」

水月先輩の胸の中で泣く。水月先輩は私のことをそっと抱きしめる

ーENDー



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