戻らない記憶 -第一章-
静かに、目を開ける

何処だここは?

ゆっくりと体を起こして、辺りを見渡す

なんだ…病院かー。

ホッと肩を撫で下ろす

何で、俺はここに居るんだ?

「目を開けた〜!」

えっ!

驚いて、声のする方を見てみると、そこにショートカットの女の子が居た

あんた…誰?よく知ってる気がするんだけど…思い出せない

頭を抱えて考える

「どうしたの?」「…誰?」「え!?」「君は…誰なんだ?」「私のこと…判らないの?」

その子は悲しそうな顔で俺のことを見てくる

「私よ!宮本桜よ!」

宮本…桜…どこかで、聞いたことがある気がするが…駄目だ!判らない

「ねぇ、どうしたの?」

その子は必死に訴えるが、一向に思い出せない。そんな時ドアが開いて、白衣を来た人が入って来る

「体の調子は、どうだね?」「はい…良いみたいです…」

入って来た先生は、彼女の顔を浮かない顔をしているのに気がつく

「宮本さん…浮かない顔して、何かあったのかね?」「孝弘が…私のことを知らないって…」

そう言って下を向く

「俺は、どうしてここに居るんですか?」「君は…事故にあったんだ」「え!?」

「奇跡的に、君は掠り傷程度で済んだんだ」

事故…かぁ。全然覚えてない…

「そんなに大きい、事故だったんですか!」「子供が車の前に飛び出して、それを孝弘が助けようとして…」

俺が…子供を?

「嶋海君。君は一時的な記憶喪失になってるみたいだね」「記憶喪失!?」

「人間は、大きなショックなど受けると、一時的に記憶喪失なることがるんだよ」

「今の俺が、それだってことですか?」

先生は静かに頷く

「だから、今は思い出せなくても、少しずつ思い出せるようになって行くから安心していいよ」

先生はそう言って笑う

「そうですか…」「おっと!私の自己紹介がまだったね。私は、君の担当の大宮隆だ。よろしく」

先生はそう言いながら手を前にだしてきたので握手をする

「私は、これで失礼するよ」「どうも、有難うございました…」

先生は部屋を出て行った

「ねぇ、りんごでも食べる?」

りんごを手に持って、ニッコリと笑いながら聞いてくる

「あぁ…」「なんで、ここに居るだ?」「何でって…彼氏が事故にあってじっとしてる人なんていないよ…」

「彼氏?」「孝弘のこと。それも忘れちゃったの?」

心配そうにこちらを見てくる

「そう…みたいだ…」

それを聞いて、暗い顔をする

「でも…それは一時的なことだって、先生も言ってたし。気にすること無いよ」

さっきとは打って変わって、明るい顔でそう言う

「そう…だな…」

気にするなか…。彼女の顔を忘れるなんて、俺は最低だな…

「はい、出来た!」「何これ?」

皿の上の物体を指差しながら聞く

「見て判らない?りんごよ!」「それは、見れば判るが…何で、こんなに小さいんだ?」

「私、不器用だから…」

テヘっと笑いながら、下をぺろっとだす

「そうか…。別に気にしなくて良いよ」

そう言って一つ食べてやると、嬉しそうな笑顔を浮かべた

「俺は…どれ位、眠ってたんだ?」「確か…3日」「その間、ずっと付き添っていたのか?」

「うん…トイレ以外はね」

普通は、そうだろ

「有難うな…」「そんなこと言わないで」「だって、いろいろと心配かけたし…」

「ううん。気にしなくていいよ。私が、したくてやったことなんだから」「そうか?」

その子はニッコリと笑う

3日…かぁ

「ねぇ…」「どうした?」「あのことは…忘れてないよね?」

真剣な顔で俺の顔を見てくる

「あの…こと?」

何か大切な事だったような気が

「ほら、あの日に言ったこと!」「俺が…?」「うん!」

何だ…俺が言ったこと。あの日ってそもそも何だ?思い出せない!

「忘れてるんだね…」

がっかりした顔をする

「すまない…」

申し訳なさそうな顔をする

「誤らなくても…良いよ…」「でも…」「記憶が戻ってないんだから、仕方が無いよ」

軽く下を向きながら言う

「一つ…聞いても良いかなー?」「え!?何?」「俺は…君のことを何て呼んだ?」「私こと?桜だよ!」

「桜か…」

そう呟いて、窓の外を見る

「どうしたの?」「そう呼んでも…良いのかなって思って…」「良いに決まってるじゃない!彼氏なんだから」

「そう…だよな…」

でも…今の俺は、そう呼ぶ資格は無いな

「俺の両親は、どうしてるんだ?」「孝弘の両親は、海外に行ってる」「海外!?」

「うん!遺跡発掘とか言って、世界中を飛び回ってる」

何でこんなに詳しいんだ?

「やけに詳しいな?」「私達は幼馴染だから」「幼馴染!?」「ずっと、お隣さんやってるんだから」

お隣…さんか

「幼稚園から高校も一緒って…感じ?」「うん!」

マジかよ!それで、今は俺の彼女…

「今、すごく嫌そうな顔しなかった?」「え!?してない…してない…」

顔の前で手を横に振る

「本当に〜」

疑いの眼差しでじーと見てくる

「本当だって!」

何だか…こうして話してると、凄く懐かしい感じがするな

「俺は何を、やってたんだ?」「孝弘は、家でごろごろしてるだけ」「マジ!?」

驚いた顔で聞き返す

「うん!『親の金で、生きて行くんだ〜!』とか言ってたこともあるよ」

俺って、馬鹿だ

「俺って、馬鹿なことやってたんだな…」「うん!そうだね」

そう、キッパリと言う

「家に居たってことは、働いても無いんだよな?」「そうだね…」「学校とかもか?」

「孝弘は、高校を卒業して2年になるよ」

2年間、俺は無駄な時間を過ごしたのか

「そろそろ…私は帰るね」「ああ…悪かったな」「気にしない…気にしない…」

そう言いながら部屋から出て行く。何かを思い出したように、ドアの所で振り返る

「あとで、恵ちゃん連れて来るね」「…誰それ?」「孝弘の妹!」「妹!?」

俺に妹なんて、居たのか

「うん!凄く心配してたから。またあとでね」

軽く手を振りながら出て行った。しばらくベットに横になり、天井を眺めながらいろいろな事を考える

気がつくと眠っていた。ゆっくり起き上がると、桜ともう一人ポニーテールをした女の子が立っていた

「お兄ちゃん!記憶が無いって本当?」「え!?ああ…」「じゃぁ…恵のことも、判らないんだ…」

ポニーテール子は軽く下を向く

「御免な…」「孝弘、この子が孝弘の妹の恵ちゃんだよ…判る?」

黙って、首を横に振る

「ひどいよ…。恵のこと忘れるなんて…」

ポニーテールの子はグスンと泣く

「仕方が無いよ…記憶が無いんだから」「そうだけど…」「ごめんな…俺が、こんな風になったせいで…」

「恵こそごめんね、お兄ちゃんの気持ちも考えないで…」

二人して、暗い顔をする

「もー。二人とも、元気だして!」

コンコン

「はーい!」

ドアが開いて、髪で団子を作った看護婦さんが入って来た

「お食事でよ…」「あ!私が取りに行かなかったから…」「いいのよ。これが、私の仕事だから」

看護婦さんはニッコリと笑う

「そうだけど…久美子だって忙しいでしょ?」

胸についている名札を見る。そこには、伊藤と書いてあった

伊藤久美子さんか

「お兄ちゃん、この人もお兄ちゃんの同級生なんだよ!」「え!?」

同級生…この人が。かなり大人びてる

「隆弘君!あんまり、桜を困らしたら。私が許さないわよ!」

伊藤さんは、笑顔をでそう言う。宮本さんは顔を紅くして下を向く

「これ、よろしくね」

伊藤さんは、食事を宮本さんに渡して出て行く

「恵ちゃん、悪いけど」「判ってま〜す!」

恵はテーブルの用意をする。宮本さんは、テーブルの上に食事を置てくれる

「さ…口を開けて」「え!?」

困惑した顔で宮本さんを見る

「もしかして…嫌だった?」

宮本さんは軽く下を向く

「別に…嫌じゃないけど…」「じゃぁ!あ〜ん!」「待たしたら、悪いよ」

ここは、食べてあげにと可愛そうだな

パク!

「じゃぁ!次は…これ!」「それって、お兄ちゃんの嫌いな人参だね?」

俺って人参が嫌いだったのか?

そんなことを考えている間に、口の中に入れられる

「どう?食べれそう?」「俺って…本当に人参を嫌いだったのか?」

「お兄ちゃん。人参が入ってる物だと、恵のお皿に人参を移すんだもん!食べる恵の身にもなってよね!」

あはは…。そんなことまで、してたんですか

「人参って、美味いな!」「じゃぁ。これ!」「それも、お兄ちゃんの嫌いな!ピーマンだ!」

「もしかして、俺って好き嫌いかなりあったのか?」

「それは、沢山だよ!お兄ちゃんの分まで食べてた恵が、どれだけ大変だったか…」

あはは…。申し訳ない。

パク!

「うん!美味い!」「すごーい!ずっと、記憶喪失で居たら嫌いなもの無くなるね!」

宮本さんは嬉しそうに言う

「そんな問題か?」「そうなのです!」

恵は胸を張りながら言う

「胸をはりながら言うな、胸を…」「胸なら、私も負けないよ!」

宮本さんも負けじと胸を張る

「中学生と張り合ってどうする…」「恵は、中学生じゃないよ!」「え!?」

何処からどう見ても…中学生何だが

「高校生だし、体だって大人なんだよ!」「マジ!?」「お兄ちゃん…確かめてみる〜?」

恵はそう居て迫ってくる

「あー!ずる〜い!私だって成長してるんだから」「張り合うな〜!」

「お兄ちゃん、見たくないの?何時もだったら『早く見せろ〜!』って来るよ」

俺っていったい

「そうだね、隆弘君はそうだったね『おら〜!早く脱げ〜!』っていつも迫って来たもんね!」

変態だな…俺って

「俺って、そんな奴だったのか?」『うん!』

二人揃ってそう言う

「俺って、エロだったんだな…」

ガックシと肩を落とす

「そうだよ!」「こうなって、良かったかもね」「そうだな、変なところが治って。さて、飯も食ったし俺は寝る!」

「お兄ちゃん!食べて寝ると、牛になるよー」

なんと、幼稚な事を…

「牛じゃないよ、豚よ」

こっちにも、同レベルが居た

「帰らなくて、良いのか?」「うーん…」「そうだね…」「お兄ちゃんを、お風呂に入れたら帰る!」

「ちょっと待て!俺を風呂に入れるだと!」「そうだよ!」

恵はさも当然といった顔で言う

「一人で…入れるから」

恵は残念そうな顔をする

「何で残念そうな顔するんだ?」「別に…」

記憶の無くなる前の俺って…いったい

「私達、帰るね」「ああ…またな」「うん、またね」「お兄ちゃん…看護婦さんに手出したら、だめだよ!」

「だすかー!」「あやし〜」

そう言って恵と桜は、部屋を出て行く

やっと、一人になれた。あ!これ片付けて行かなかったな!仕方が無い、持って行くか

お盆を持って、部屋を出ようとした時にドアが開く

「お兄ちゃん!あれ、片付けてなかったよね?」「これのことか?」

お盆を恵に見せる

「そうそう、それ!」

恵はそれを受け取り、走って行く。ドアを閉める時、外ですごい音がする。

顔を出してみる、恵が見事にこけていた

大丈夫か…?

心配で覗いていると、すくっと立ち上がって頭を軽く掻き、散らばった食器を拾う

堂本さんも来て、一緒に拾い始める。それを確認して、部屋に入りベットに横になって居ると先生が入って来る

「どうだね、調子は?」「記憶が無いことを除けば、いい感じです」「そうか。なら明日にでる退院できるな」

「え!?そんなに早く出来るもの何ですか?」「君は、記憶喪失を除けば健康そのものだ」

「そうですね…」「だから、君をここに置いとく必要はまったくない!家には、私から連絡しとくから」

そう言って先生は、出て行った

そうだよな、記憶が無いこと除けば健康だもんな

明日…外に出るのか。4日ぶりに…。今日は寝よう

目を閉じて眠った


体をゆすらて目を覚ます

「お兄ちゃん!起きて!」「ん?もう朝か?」「もう!9時だよ!」「そうか…」「ほら、早く着替えて!」

着替えを投げらる

「あのさ…後ろ向くか、外に出てか。どっちかしてくれない?」「え!?いつも恵の前で、着替えてたよ!」

「頼むから…」「判りました!」

恵は、後を向く

これで着替えができる

着替えをしていると、ドアが開いて宮本さんが入って来る

ゲッ!!マズイ…

「え……。キャ〜!」

ガン!

宮本さんが投げた鞄を避ける事がこともできず、顔面にHITしてそのまま、床に倒れる

「あがー!」「お、お兄ちゃん、大丈夫?」「ああ…。何とか…」

「ごめん…。いきなりだったから驚いて…」「あいてて…。今度から…ノックしてくれよ」「う、うん…」

宮本さんはしゅうとなる

「二人とも出ってくれ!」

そう言って、入り口の方を指差す

「減るもんじゃないから、見せて!」「良いから!」「判った…」「終わったら言ってね、お兄ちゃん」

二人が出て行くのを確認して、着替えを初める。着替えが済ませて、二人を呼ぶ

「終わったぞー」『本当に…大丈夫?』「何が?」『下半身…裸とか無いよね?』

「そんな訳あるか!」『それも…そうだね』『入るよ〜!』

ドアを開けて、二人が入って来る

「お兄ちゃん、一人で着れたんだね」「俺は、そんな子供か?えー!」「違うの?」

「違うに決まってるだろがー!」「ふ〜ん…」

ふ〜んってなんだよ…ふ〜んって

「孝弘の荷物は、これだけよね?」

宮本さんは、小さな鞄を持ちながら聞いてくる

「たぶんな…」「さ、行こう!」「お兄ちゃん、おんぶ〜!」「どわ〜!」

恵が背中に飛び付いていきて、首を締め付けはじめる

「降りろ…!重い…苦しい…」「エー!やだ!」「いいから…早く…」

じゃないと…俺が死ぬ!

「ブー!」

恵はそう言って、お飛び降りる

「ハァハァ…助かった…」「隆弘!何やっての?」「今、行くよ…」



「うーん!やっぱり、外はいいなー」

そう言いながら、大きく伸びをする

「ここで、待てて!」「え!?」

宮本さんはそう言って走って行く

何処に行くんだ?

「これから、楽しいドライブだね。お兄ちゃん!」「ドライブ?」「そうだよ!」

恵はそう言って、ニコニコと笑う。しばらくして、目の前にS−13が停り。

運転席の窓が開いて、宮本さんが顔をだす

「さー、乗って!」「わ〜い!わ〜い!」

恵は、飛び跳ねながら乗り込む。後ろに乗ろうとすると、宮本さんにとめらる

「孝弘は、ここ!」

そう言いながら助手席を指差す

「助手席…か?」「そう!」

後に荷物を置いて助手席に座る

「じゃー!行くわよー!」

おい…。行くって…まさか!

宮本さんは、思いっきりアクセルを踏む

やっぱりー!

「キャー!楽しいー!」

誰か…助けってー!


「ここが、孝弘の家よ。思い出した?」「ここがねぇ…」

それにしても…でかいな。俺の家

目の前に聳え立つ、家の大きさに圧倒される

「お兄ちゃん、入ろう!」「ああ…」

車を降りて中に入る

ウヒャー!ひろー!

「お兄ちゃんの部屋は、ここだよ!」

恵は一つの部屋を指差す

へー。ここが俺の部屋かー

部屋の中をゆっくりと見渡す。そして、とある物を発見する

「どわ!」「え!?どうしたの?」「ば、馬鹿!勝手に入って来るな!」

慌ててとある物を隠す

「今…何隠したの?」「な、何も…」「ふ〜ん、テヤ!」「あ!?」

一瞬の隙をつかれ、隠した物を取られる

「なんだ、エロ本じゃない!」

何だ…って。普通は驚いたり…叫んだり…するだろ?

「驚かないのか?」「孝弘の部屋には、こんな物はそこら中にあるわよ!」

マジですか!それにして…よくご存知で

「このさいだ!掃除でもするか!」「え!?」

宮本さんは驚いた顔で見てくる

「何で…そんなに驚くんだよ?」「だって、孝弘は掃除の『そ』の字もしようと知らなかったのに…」

掃除の『そ』の字って何だよ

「俺って…そんなに掃除しなかったのか?」「掃除は全部、恵にやらしてたんだから!」

恵が不満そうに言う

「恵ちゃんは、いい子だもね」

宮本さんは恵の頭を撫でる

「恵は、いい子だからもっと誉めてー!」

普通…そんな事を自分で言う奴が居るか?

その後、二人を無視て掃除を始める

「うわ!お兄ちゃんが本当にやってる!」「孝弘がやる気になってる…」

二人は、信じられないと言った顔で、その光景を眺める

「邪魔したら、悪いから。あっちで、テレビでも見よ」「テレビより!ゲームしたい!」「良いわねー」

どうでも良いから。ささっと出て行ってくれ。はぁ…これで心おきなく掃除ができる

え〜と、これはいらない。これもいらない。あ!これもだ、結構ため混んでるな

部屋から顔をだす

「空き箱か何かないか〜?」「あるよ〜!」

恵が、空き箱を持って来る

「悪いな…」「お兄ちゃんが掃除なんて、明日は槍でも降るそう!」「変な言い方をするな!」

「恵ちゃん!早くおいでー!」「はーい!」

部屋に入り空き箱に、いらない物を詰め始める。1時間弱かけて、掃除が終る

ハー。こんなものだろ

『お兄ちゃん、終わった?』「まあな…」『入るよ〜!うわ!」

「どれどれ?うわ!か、片付いてる?」「二人して、同じ反応ですか…?」

「だってー、お兄ちゃんの部屋って散らかってるのが、当たり前だったもん!」

そうだろうな。さっきまでの状態を見ればよく判る…

「へー!エロ本を全部捨てるんだー」「そうだ!」

胸を張りながら言う

「お兄ちゃんが命より大切にしてたのに…」

何を大切にしてたんだか

「さて、俺もゲームしようかな…」「操作方法判るの?」「うぐぅ……判りません…」

がっくしと肩を落とす

「それじゃ、できないわね」「お兄ちゃんは、応援だね!」

応援かー。でも…どっちのだ?やっぱり、宮本さんのか…?恵か…?うがー!どっちだー!

「孝弘〜!早くおいでよ!」「お、おう…」

二人のところに走って行く

「何やってるんだ?」「孝弘に言っても無駄よ!」「なんでだよ?」「だって、判んないでしょ?」

「ぐ…」「直球ど真中!ストライクー!だね。お兄ちゃん!」

なんだよ、その例えは…。他の例えは、無いのか?他は…?

「恵ちゃん、始めるよ!」「はーい!」

さって、どんなのやるんだ?

画面を眺めていると、野球ゲームが始まる

なんだ。野球か。前にやった気がするな。それもそうか、俺の家にあるんだからやったって不思議じゃないか…

『打った〜!入るか!入るか!入った〜!』「やった〜!」「うー!打てれた…」

恵はがっくしと手を床につける

「恵ちゃんは、まだまだね!」

恵は半泣きの顔をあげる

「お兄ちゃんには、勝てるもん!」

俺に勝って…嬉しいのか?

「ねぇ、これ終わったらお兄ちゃんしよ」「俺が!?」「うん!」

「やってあげなさいよ。可愛い妹の頼みなのよ」「俺は、別に良いぜ!」「やった〜!」

恵はパチンと指を鳴らす

はぁ、結局やるのか。しかし、どうやってやるんだ?

二人の手元と画面を交互に見ているうちに、大体の操作方法は理解できた

大体判ったぞ!これならできる!

「あ〜あ〜、負けちゃった…」「ふふふ…私に勝とうなんて、100年早いわ!」

宮本さんはそう言って、恵をビッシと指差す

「はい、孝弘」

宮本さんからコントローラを受け取る

「あ、有難う…」「頑張って負けなさいよ!」

そう言って、肩をポンと叩く

「お、おい…他の掛け言葉は、無いのか?」「ありませ〜ん!」

ガックシ

「お兄ちゃん。早く〜!」「ああ…判ったよ」「お兄ちゃんは、何処にしますか?」

何処って言われてもなー。まぁ、ここでいいか

「恵はここ!」「よし!始めるか〜!」「うん!」

俺が選んだところは、強いんだろうか?不安だ…

「お兄ちゃん、早くー!」「あ!悪い…」

これで、良いんだよな?お!始まった

「お兄ちゃん、行くよー!」「よし、来い!」

第二章に続く


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