免許
朝飯を食べていると、水月が俺の前に座り。真剣な顔でじっと俺の方を見詰る。

「どうした?」「私…免許取るわ!」

飲んでいたコーヒーを吹き出して、むせ返る。

「なによー!失礼ねー!」

立ち上がって、水月の両肩に手を置いて、水月の目をじっと見る

「悪いことは言わない、やめてとけ!」「何でよ〜!」「世間に迷惑がかかる前に…」

すべてを言い終わる前に、水月の拳が俺の顔面をとらえる。

「見てなさいよ!絶対に取ってやるんだから〜!」

そう言って、家から出て行く。


「ぎりぎりって所だな。でも、油断は禁物だぞ!」「判ってるわよ」

「私はどうでしたか?」「茜ちゃんはと…もう少しって、所だな」「そうですかー…」

「私はどうかなー?」「涼宮は問題ないぞ。間違えなく合格だろうな」

今日は3人の仮免許のテスト勉強に付き合わされている

「ところで、この中で誰が一番上手いんだ?」「何がですか?」「運転だよ。運転」

「茜かなー?」「え!私?」「そうかしら? 私の方が上手いと思うけど」

それを聞いたとたん、涼宮姉妹は同時に苦笑いをする。

その顔から察すると、よっぽどひどいのだろう。まー、自分で上手いって人は、上手い人はいないだろ…

「さー、次やるぞー!」「はーい!」「うん!頑張るよ!」「頑張って取らないとね」



昼寝をしてると、水月に起こされる。

「なんだよー。人が気持ちよく寝てるのに…」

水月はすごく嬉しそうに笑っている。

何だ? いいことでもあったのか?

水月は俺の顔の前に自分の顔を近づけて、にーと笑った後ジャーンと免許を差し出す。

「一発合格よ!」「へー、それはすごいなー。で何台配車にしたんだ?」

そう冗談で言ってみると、嬉しそうに免許を眺めている水月がピクと反応する。

「何のことかしらー?」「だから…」

水月の殺気に気がつき誤る。

「仕方が無いわねー。そうまで言うんだったら、乗せてあげるわよー!」「誰も、乗りたいなんて…」

「乗りたいわよねー!」「は、はい…」

結局、水月に押し切られる感じで乗ることになった。

ところで、車はどうしたんだ?

水月に引っ張られながら考える。駐車場に行くと、水月は一台の車の所に行った

「それ、どうしたんだ?」「いいでしょ〜!」「まさか盗んだのか?」

言い終わると同時に、水月の靴が脇腹に飛んでくる。

「がは…ナイス…コントロール…」「まったく、馬鹿なこと言わない!」

脇腹を押さえながら何とか立ち上がる

「なら、どうしたんだよ?」「買ったのよ!」「は〜?」「だから、買ったの!」

しばらく沈黙ののち、改めて聞く

「本当に買ったのか?」「そうよ、ずっとそう言ってるでしょー」「100万か? それとも200万か?」

「そんなに高いのは、さすがに買えないわよー」

水月は『ちょっと欲しかったけど…』と小声で言う

「ん? 何か言ったか?」「ううん、何も言ってないわよ」「ところで、どれ位したんだ?」「30万!」

「大丈夫なのか? そんなに安物で…」「だから、今から試すんでしょ!」

え、試すって…まさか、今日が…。

身の危険を感じて、そーと家に向かう時に見つかり、車に放り込まれる。

その後、何故か椅子に縛り付けられる。

「何で、縛るんだよー?」「それは、逃げられないようによ!」

水月は運転席に座り、大きく深呼吸をする。

「準備はいい?」「こんな格好で、できるわけ無いだろ〜!」「できたみたいね」「人の話を聞けー!」

「水族館に向けて、レッツゴー!」

水月はアクセルを踏み込み、走り出す。その走りはとても初心者の運転ではなかった。

うわー!ぶつかる〜!おじいさーん、よけて〜!

この後、水族館まで俺の死のドライブは続くのだった。

「誰か〜、助けて〜…」

ーENDー



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