ケーキ |
「少し、遅くなる?」「うん、そうなんだよ。ごめんね」「別に誤らなくても…」「だから少し遅くなるから」 「了解!」 電話を切り、振り返る。 「お姉ちゃん、なんて言ってました?」「ケーキを作ってるから、遅くなるとさ」 茜ちゃんは、それを聞いて凄く嫌な顔をする。 「何でそんな顔するんだ? 涼宮は、孝之のために料理の勉強してるんだろ?」 「うん、それは…そうなんですけど…」 茜ちゃんは浮かない顔をする。 「普通の料理は、大丈夫になってきたんですけど…お菓子関係は、まったく別なんです…」 真剣な顔で言う。それを聞いて、俺は物凄く嫌な予感がした。 「どうしたんですか?」「なんか、物凄く嫌な予感が…」 「キャー!」 窓を開けて、外に煙を出す。 何処で間違えたのかな〜? どうしよう、このままだと皆に食べてもらえないよー。 首を左右に振り、気合を入れ直す。 「遙、ファイト!」 「鳴海さん、遅いですね」「そうだな。まあ、バイトだから仕方が無いけどな」 「それにしても、遅すぎです!」 ブ〜と茜ちゃんはふくれる。俺は、それを見て笑う。 「どうしよ〜。これは、絶対にケーキじゃないよね〜」 自分の前でウニュウニュと動く物体を見て、どうするか真剣に悩む。 材料も無いし…ふえーん、どうしよ〜。 そんな時、ある物が目に入る。 あ!これで何とかなるかも。 ウニュウニュと動いている物体をゴミ袋に詰める。 なんだ、この異様な寒気は…。何だか、とてつもない物がやって来るような気が。 呼び鈴が鳴り、ドアを開けると孝之が立っていた。 「遅いですよー!鳴海さん!」「悪かったよ」「まー、茜ちゃん。孝之だって遊んでた訳じゃないんだから」 孝之はそれを聞いて、ドキっと驚きの表情をする。 まさか、本当に遊んでたのか? 「遙は、まだ来てないのか?」「ケーキを作って来るってさ」「ふーん、そうか」「鳴海さん!」 茜ちゃんは、ずいっと孝之の前に顔を出す。 「うわ〜!な、なんだい? 茜ちゃん」「今日が何の日か、もちろん!覚えてますよねー!」 孝之はウンウンと何度も頷く。それを見て、茜ちゃんはほっと肩を撫で下ろす。 呼び鈴が鳴り、ドアを開ける。 「遙〜、遅かったなー」「ごめんね」「別に良いけどさ。ま、あがれよ」「うん…」 「よし、これで準備は整ったな」「そうだな。残るは、主役の登場を待つだけだな!」 「早く来ないかな〜?」「もう時期、来るって」 呼び鈴が鳴る。 「な!」「本当だな」「さすが、恋人ですね」「おだてても、何も出ないぞ」「そ、そんなじゃないですよ〜」 「そういうことに、しといてやるよ」「ブ〜…」 ドアを開けるとそこには、今回の主役が立っていた。 「ごめ〜ん。なかなか、抜け出せなくって…」「いいて。それより、大丈夫なのか?」 「うん、そっちの方は大丈夫」「ならいいが…」「水月先輩、オリンピック出場決定おめでとう御座いま〜す」 茜ちゃんはそういうと、クラッカーを鳴らす。それに続いて、涼宮、孝之の順に。 「え!え!」 水月は訳がわからず、辺りをキョロキョロと見渡している。 「おめでとう、水月…」 水月はやっと事情を理解したらしく、小さく頷く。 「それじゃ、涼宮の作ったケーキでも食べるかー」「何!遙の手作りだと〜!」 「あんまり期待されると困るよー」 涼宮は照れて、顔を赤くする。 「開けるね…」 涼宮は、そっと箱を開ける。 「なっ!」「嘘!」「な、何!」「こんなことだろうと、思ってたけど…」「どうかな〜…?」 そこには、綺麗に積み重なれた、芋きんつばがあった。 「ごめんね。失敗しちゃって、材料が無くて…」「よし、これは孝之に任せた!」「な!俺に!」 「可愛い彼女が作ってくれたんだ。喜んで食べるよな〜!」「判ったよ。俺に任せろ」 孝之は、涼宮と一緒に芋きんつばケーキを食べ始めた。 「こんなこともあろうかと」 俺は隠しておいた、ケーキを取り出す。 「最初からあったんだ〜」「いやな、涼宮が作るって聞いたから、必要ないかなーって思ってたんだけど」 ちらりと孝之の方を見る。 「ねー、早く食べましょー。あ!一番大きいのは…」「判ってるって。水月にだろ」「そうです!」 「茜〜。まかさ、私を太らして…」「あ、ばれました?」 茜ちゃんは、あどけなく笑う。水月は茜ちゃんの頬を摘んで、横に伸ばす。 俺は、それを見て1人で大笑いをする。その後、茜ちゃんに頬を引っ張られるとは、この時は思っても見なかった。 |
ーENDー |