必要な人
「ん…」「おはよう御座います…」

雪が優しく微笑みながら、覗き込んでくる

「あれ…俺は…?」「気持ち良さそうに、寝てらっしゃいましたよ」「そっか…雪の膝枕は気持ちが良いからなー」

そう言って、空を見上げる

「もう一度、寝ようかな〜?」「またおやすみですか?」「雪の膝枕…気持ちが良いから…」

「そうですか…では、ゆっくりとおやすみ下さい」

ゆっくりと目を閉じる


ゆさゆさ…

ん…?何だ?

ゆっくりと目を開けると、雪がそっと覗き込んでいた

「どうしたの?」「日が傾き始めましたので…」

起き上がって見てみると、確かに夕焼け空になっていた

「俺って…そんなに寝て?」「はい…とても気持ち良さそうに」「そっか…雪の膝枕のおかげだな…」

頬を紅くする

「帰ろうか?」「はい…」

雪はにっこりと笑う


コンコン…

『ちょっと…!起きてる?』

うるさいな〜!もう少し寝かせて…

バサ!

「もう、何やってるのよ!早く起きなさいよ!」

水月が仁王立ちでいう

「あと…五分…」「だーめ!そんなに寝てたら遅刻するでしょ!」

水月は俺をベットから引きずりおろして、雪の所に引っ張って行く

「ほら、速く食べて!」

寝ぼけ眼で、朝ご飯を食べ始める

その間に、雪が着替えを済ませてくれる。どうやって着替えさせたは、謎だが…

「いってきます〜!」「はい…いってらっしゃいませ」

雪はにっこりと笑いながら手を振る

「ほら!走らないと遅刻よ!」「わ〜てるよ!」

そう言いながら、雪の方を見る

ギュー!

「あいだだだ…」「何を雪さんを見てるのよ!帰ったら、また会えるでしょうが〜!」

水月はこれでもか、というほど耳をつねる

「すみませんでした…」「判れば良いのよ!ほら、走るわよ!」

俺は、家に帰って来たら、そこに雪が居ないような気がしていた


「ただいま〜!」

何時もなら、雪が出迎えてくれるのに、今日は出てこなかった

きっと、買い物でも行ってるんだろうな

それから何時間たっても、雪は帰ってこなかった。時計を見てみると夜の9時だった

雪…遅いな〜

そして、その日に雪は帰って来なかった。その翌日も、そして…その次の日も…


雪…どうしたんだ?いったい…どこに行ったんだ…?

「何をぼーとやってるの?」「え!?」

声がした方を見る。すると、一瞬雪に見えたがすぐに水月に戻る

「何だ…水月か…」「何よ〜!その言い方!それより、どうしたの?最近、元気ないけど?」

「別に…何でも無い…」

そう言って、ボーと焦点が合わない目で何かを眺める

「ねぇ…何か悩みがあるんだったら云って…私が力になるから…」

水月は悲しそうな顔でそういう

「ほっといてくれ…」「放って置けないから!こうして…」「出ててくれ…。俺を一人にしてくれ…」

水月は近づいて来て、頬を引っぱたく

「何するんだ!」

そう言って水月の方をみると、水月は泣いていた

「判ってる…私がどれだけ心配してるのか?」「じゃぁ…水月には判るのかよ!今の俺の気持ちが〜!」

「判りたくも無いわよ!そんな、自分の殻に閉じ篭ってる人の気持ちなんて!」

「じゃぁ…水月には判るのかよ!ゆ…雪がどこ行ったか〜!えー!」「え…」

水月は後ろに二、三歩下がる

「判らないんだったら、放っておいてくれ!目障りだ!」

水月はゆっくりと近づいて来て、優しく抱きしめる

「もう…大丈夫だから…」

水月はそう言いながらそっと、頭をなでる。その時の水月は雪と同じ感じがした

そして、水月の胸の中で泣き続けた


「そう…雪さんって人が…」「そうなんだ…いきなり、居なくなったんだ…」

「こう言ったら、残酷かも知れないけど…。雪って人は最初から居なかったのよ…」

「嘘だ!雪は…雪は絶対に…」「私自身、その雪って人のこと…」「言わないでくれ!」

そう言って両耳をふさぐ

「きっと…それは夢だったのよ…そうじゃないと…」「違う…あれは現実だ!」「でも…」

「雪の温もり…雪の笑顔…雪の…」「いい加減にしなさいよ!居ない人の事を言っても仕方が無いでしょ!」

「うるさい!俺は…俺は…絶対に信じないぞ!」「でも、現実は…」

「ただいま戻りました…どうかなされたんですか?」

水月と一緒に雪を見て、目をぱちくりさせる


「そうですか…すみませんでした。定期検診で、少し留守にしますとお伝えしたはずなんですが…」

「あ〜!言われた…確かに!」「ふーん…言いたいことはそれだけ?」

ボキボキ…

「ま、待て…水月…」「問答無用!」

ボコン!

「うぎゃー!」「まったく…」「あの…何があったんでしょうか?」「あの馬鹿に聞いて頂戴!帰る!」

ーENDー



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