悲惨な現実
真っ暗な部屋でただ一人、ぬいぐるみを抱えて座り込む。

孝之君…何処に行ったの。私、どうしたらいいの? ねー、孝之君…教えてよー。

穂村さんが言った事が本当でも、それは仕方が無いことだら…。もし、そうなら孝之君の口から聞きたい。

孝之君の口から、本当の事を聞かせてよ…。

ぬいぐるみを強く抱きしめる。ぬいぐるみに一滴の雫が落ちる。



「お姉ちゃん、ご飯を持って来たよー」

ドアをノックするが、何時ものように返事は無い。

「ここに置いておくからね」

そう言って、ドアの所に夕食を置く。そして、まったく食べていない昼食を持って台所に向かう。

「あら、また食べてないの?」「うん…」「これで何日目かしら? 大丈夫かしら?」

お母さんは、お姉ちゃんの部屋の方を見上げる。部屋に戻り、ドアを閉めてそのまま立ち尽くす。

グッと拳を握り締め、そのままベットへと走って行き、枕を何度も殴りつける。しばらく殴り続けて、そのまま倒れこむ。

「鳴海さん、いったいどうしたんですか…? どうして、いきなり居なくなったんですか…?」

目から涙が零れ落ちる。

私…どうしたらいいんですか…? もう耐えれません…あんな、お姉ちゃんを見続けるなんて…。

だから…一度でいいですから、姿を見せて下さい…。お願いですから…。



「うがあああぁぁぁぁ!征服プレイがしたいんだったら、イメクラでも行きやがれ〜!」

まったく、最近はマナーを知らない客が多くて困りものね。

「あにさ、その目は!文句があるんだったら…ん?」

その時、肩に手が置かれる。

「糞虫の分際で、邪魔するなさ!」

そう言いながら振り返ると、そこに居たのはまゆまゆだった。

あ、そうかだったわね。もう、糞虫は居ないんだったわね…。勝手にやめてそれで済むと思ってるのかしらね。

私の前に来て、説明しないさよ! でないと、この気持ちどうしたらいいのさ!

「うがあああぁぁぁ。さっさと帰ってこ〜い!糞虫が〜!」



「あわわわわ…、やっちゃいました〜!」「玉野さん。大丈夫かい?」

え、孝…之…さん?

孝之さんすーと消え去る。

「ちょっと、まゆまゆ。大丈夫?」「はい…」「はい、放棄と塵取り」「かたじけない…」

先輩から、放棄と塵取りを受け取って掃除を始める。

孝之さん。きっと、戻って来てくれますよね…。そして、前みたいに皆で働けますよね。

すっと、天井を見上げる。


孝之…。

気持ちのいい風邪が私の髪を揺らす。

そう言えば、二人はここでサボってたわね。

そっと丘の上の木に寄りかかる。

孝之…、穂村さんが言ってた事って本当? それなら、それでもいいから…もう一度、私達の前に出て来てよ。

孝之!

木を思いっきり殴り続け、その場に座り込む。

「孝之の馬鹿〜!さっさと帰ってきなさいよ〜!」

両手で木を殴りつけ、そのまま泣き崩れる。



遙は、墓を抱きしめながら泣いてく。

「こ、こんな事って…」「あんまりですよ…鳴海さん」「うがあああぁぁ…!勝手に…勝手に…」「孝之さん…」

その後、しばらく誰も口を開こうとしなかった。水月が、遙の泣いている遙の肩にそっと手を乗せる。

「遙、帰ろ…」

水月の問いかけに、遙は首を横に振る。それを見た、水月は遙に平手打ちをする。

「み、水月先輩!」「あんた!いい加減にしなさいよ!悲しいのは、自分だけだなんて思わないでよ!」

水月に叩かれた頬を抑えながら、キッと水月の方を睨みつける。

「だったら、どうしたらいいのよ!私は、孝之君しか居なかったんだよ!」

「死んじゃった人の事を言ったって仕方が無いでしょ!」

「何よ!そんな言い方しなくてもいいでしょ!水月だって。まだ孝之君のこと好きなんだよね!」

水月は、その問い掛けに返す言葉は無かった。

「だったら判るよね〜? 私の気持ち…」「そうよ!だから何? 私も遙みたいに泣けばいいの?」

水月の返しに、今度は遙が黙る。水月は遙に平手打ちをする。

今度は、遙がキッと水月を睨みつけて、水月に平手打ちをする。

今度は水月が、次は遙がといった感じで繰り返し、平手打ちをする。

「もうやめて下さい…水月先輩もお姉ちゃんも…」

茜の叫び声に二人は、ピタリと動きが止まる。

「こんなの…絶対に…鳴海さんは望んでないと思いいます…」

水月とは遙は下を向く。

「だから、もうやめて下さい。前みたいに、仲良くしてください…」

茜の目に涙が溜まり、零れ落ちる。水月と遙は茜を抱きしめる。

「茜、ごめんね」「ごめん…茜」「もういいんです。判ってくれれば」


穂村さんが孝之を監禁していた事が明らかになり、警察が動き出しすが、その時は彼女は姿を消していた

そして、しばらくして新聞にこのような記事が載る。『身元不明の死体!漂着!』と

ーENDー



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