墓参り
花と線香をそなえて、そっと手を合わせる。そして、ポケットから一つの石を取りだして眺める

その石に、数滴の水が落ちる。石を持っている手も小刻みに震る

「ごめん…泣かないって決めてきたのに…俺って駄目な奴だな…」

墓石の前で膝を付いて、石をグッと抱きしめながら泣く

しばらく泣いたあと、ゆっくりと立ち上がり荷物を持って帰ろうとした時、そこに立っている人物を見て驚く

「孝之…君…」

な、何で…ここに?

「あのね…星乃さんが孝之君は、きっとここだって教えてくれたの…」「ほ、星乃さんが…?」「うん…」

「でも、何で…」「星乃さんがね。きっとここに来て泣いてるから、慰めてあげてって云ったんだよ…」

星乃さんが…

「でも、そんな必要ないようね…」

何が云いたいんだ?

「だって、孝之君はすごく強いもんね…」

俺が…強い…。それは違う…俺は…

「私も、拝んでも良いかな〜?」「きっと、蛍も喜ぶよ」「うん…そうだね」

遙は墓の前に行き、ゆっくりと手をあわせる。そして、立ち上がりゆっくりと俺の方を向く

「孝之君…私、帰るね…」

遙はそれだけ言って、俺の横を通り過ぎる時に、遙の手を掴む

「孝…之く…ん?」「あ、ごめん…」

俺は何をやってるんだ…。何で、遙の手を…

頭を抱えながら、膝から地面につく。遙は、そんな俺をそっと抱きしめる

「大丈夫だよ…孝之君は強い人だもん…。だって、私が好きになった人なんだから…」

遙はそう言いながら、そっと俺の頭を撫でる

「はる…か…」

しばらく、遙の胸で泣きじゃくる。しばらく、そうしたあとでゆっくりと遙の顔をみる

すると、遙の顔が蛍の顔に見える。その顔は、にこやかに笑っていた

そして、何処からともなく蛍の声が聞こえてくる

『鳴海さん…幸せになって下さいね』

え!?蛍!

慌てて立ち上がって、あたりを見渡す。しかし、そこには蛍が居るはずも無く、ただむなしく風邪が吹き抜ける

ゆっくりと額に手をあてる

今のは、空耳だったのか?

「孝之君…どうしたの?」「今…蛍の声が聞こえたんだ…」「え!?」

「馬鹿だよな…居るはずの無い人の声が聞こえるなんて…。俺もどうかしちまったのかな…へへへ…」

「ううん…。それは違うと思うよ…」「え!?」

遙は俺の手をそっと取って、俺の胸にあてる

「天川さんは居るよ。ここに…ずっと、孝之君の心の中に居るんだよ…」

遙はにっこりと笑う

「俺の…心に…」「うん!そうだよ。だから、孝之君がそんな悲しそうな顔をしてたら、天川さんが心配するよ」

遙のその言葉で何かが吹っ切れ、ふっと笑う

「そうだな…こんな俺だったら、蛍も心配するよな…」「うん!そうだよ!」

空を見上げ、空に向かって手を突き上げる

「蛍!俺は、医者になる!そして、蛍と同じ境遇の人を一人でも多く、救ってみせる!」

「頑張ってね…。孝之君…」「蛍に、笑われないように頑張ってみせるさ!」

「孝之君は、やっぱり強いね…。私が好きになった人だね…」

遙はにっこりと笑う。二人の間を気持ちいい風邪が拭きぬける

ーENDー



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