「ねえねえ…ここんなんてどうかなー?」
水月は楽しそうに旅行雑誌を見せる。
「そうだな…」
その雑誌をたいして見ないで答え、コーヒーを飲みながらテレビを見る。
「次はねえ……ここなんてどうかなー?」「良いんじゃないか?」
ギュー!
「きちんとこっちを向きなさいよ!」
水月はそう言いながら耳を引っ張る。
「イタタタ…判ったから、離してくれ…耳がちぎれる…」
水月はパッと耳から手を離す。耳がついているか確かめる。
「何も耳を引っ張る事ないだろ!」「話を聞かないからよ! 話、聞いてくれるのよね?」
水月はニコニコしながら言う。
「さっき、そう言ったわよねー? 判ったって」「さあな…」
ぷいっとそっぽを向く。
パシ! パシ!
この音は…もしかして。
「水月さん、ぜひともお聞かせ下さい」
そう言いながら頭を下げる。
「判ればいいのよ!」
水月はそう言ってソフトボールをしまう。そして、テーブルの上に数冊の雑誌を置く。
そのうちの一冊を手にとり、パラパラっと中を見てみる。所々に丸印がついている。
何だ? この丸印は?
「なあ…水月?」「いい所でもあった?」
水月は興味紳士で、俺の所にやってくる。
「いやな、この印が気になってな」
丸印を指差す。
「あー、それね。それは、私が目をつけた場所に記してるのよ」「そうか…」「だから、気にしないで」
それにしても、かなりの数あるぞ。この丸印…。
別の雑誌を手に取って中を見ると案の定、丸印がたくさん付いていた。
「なあ…」「ん? どうしたの?」「俺の必要性ってない気がするんだが…」
「え? そんなことないわよ。だってほら、一人で選ぶよりも二人で選んだ方が良いでしょ?」「まあな…」
そう言って雑誌を閉じる。
「で、これは何の計画だ?」「何って…ゴールデンウィークのに決まってじゃない!」
それを聞いて、テーブルの上に雑誌を投げ捨てる。
「どうしたの? 急に」「そっか…もうそんな時期か〜」「そうよ。だから…」
「俺はパス! 後は茜ちゃんか涼宮とやってくれ」
そう言って部屋に向かう。
「一人だけ…行けないのが、寂しいんでしょうね」「あ、雪さん! 行けないって?」
「え? ご存知なかったんですか? ゴールデンウィークの間も仕事なんです…」「え!? そうなの?」
「はい…」
水月は座ったまま、部屋のドアを見詰る。
「ところで、雪さん! 何でそんなこと知ってるの? 私ですら聞かされてないんですけど…」
「え、あ、それはですね…スケジュール管理も、雪の仕事ですから…」
水月はジーと雪さんを見る。
「雪はまだ仕事がありますので、これで失礼します」
雪さんはお辞儀をして、急ぎ足で消えて行く。
「あ、ちょっと…」
コンコン!
「どうぞー、開いてるよ…」
窓から外を眺めながら返事をする。
カチャ! パタン!
ドアが閉まり、少しして誰かに抱きつかれる。
「うわ〜! な、何だ?」「さっきは、御免なさい…あなたの気持ちも考えないで…」
水月は背中に顔を押し付ける。
「俺も、子供みたいな事して悪かったな」
そう言って水月の手をそっとどけて、水月の方を向く。
「あのね、私…ここに残ろうと思うの…」「え! どうして? 楽しみにしてたろ?」「うん…」
水月は力なく頷く。
「だったら…」「ううん、良いの。だって、一人で行っても楽しくないし…」「茜ちゃんだっているだろ?」
「そうじゃないの…」
水月はジッと俺の目を見詰る。
「あなたが居ないから…」「俺が…?」
水月は黙って頷く。
「そっか…」
そう言って水月の頭をポンと叩く。
「じゃあ、一緒に居るか?」「うん!」
水月はすごく嬉しそうな顔をして、抱きつく
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