「行って来るわね…」「ああ…頑張ってこいよ」
彼は、寂しそうな顔をしている。
「頑張れよ!」「うん…」
目から涙が零れ落ちる。
やだ…別れの時は、笑顔でって決めたのに
彼はそっとハンカチを取り出して、拭いてくれる。
「泣く奴があるか…二度と会えなくなる訳じゃないだろ?」「それは、そうだけど…でも…」
「最後は笑顔で。じゃなかったのか?」「うん!」
涙を手で拭い、ニッコリと笑う。
プルルルル……
彼は、ドアが閉まる前にキスをされて、驚いた顔をする。
「しばらくは出来ないから…」
赤い顔をしながら顔をそむける。彼は私の顔を手で持ってキスをする。
プシュー…パタン!
彼は、ドアが閉まる瞬間にロケットを私の方に放る。
ドアが閉まり、新幹線は動き始める。ホームが見えなくなるまで、ずっとホームを見続ける。
ホームが見えなくなり、自分の席に座って鞄から二枚の写真を取り出して眺める。
一枚は、皆で撮った写真。もう一枚は、彼と一緒に撮った最初の写真。
写真を鞄に直して、さっき受け取ったロケットの蓋を開けてみる。中には…
もう…きざなんだから。
しばらく眺めた後、蓋を閉めて自分の首に下げて外を眺める。
駅から出ると、茜ちゃんが居ることに気が付く。茜ちゃんもこっちに気が付いて、走って来る。
「水月先輩、行っちゃいましたね」「水月が決めた事だからな」
そう言って、空を見上げる。
「水月先輩は幸せですね」「え? 何でだ?」「それはもちろん!」
茜ちゃんは俺をビシっと指差す。
「帰りを待ててくれる人が居るんですから〜!」
それを聞いて顔を赤くする。
「私も、そんな人がほしいな〜」「茜ちゃんじゃあ無理だな!」「何でですか〜!?」
「まだ、子供だからな!」「あ〜! 酷い事を平気で言うんですね!」
茜ちゃんは俺の手をとり、自分の胸にあてる。
「どうです…これでも子供って言いますか?」「あのさぁ…場所を考えた方がいいと思うが…」「え!?」
茜ちゃんはボッと赤い顔をする。
「キャー!」
パン!
俺が…いったい何をしたって言うんだよー。
茜ちゃんはむすっとしながら、一人で歩き始める。辺りを見渡すと、警官におばさんが通報していた。
あんですと〜! 俺がいったい何をしたんだよー!
「ちょっと、君! 一緒に来てもらえるかね?」
走って逃げる。
「あ、コラ! 待ちなさい!」
「ハァハァ…」
何とか巻いたみたいだな。まったく、俺が何をしたっていうんだよ。
「大丈夫ですか?」「誰のせいで、こんな事になったか判ってるのか?」「誰ですか?」
「お前だよ! お前! 第一何で俺が叩かれんだよー。自分がやったんだろがー!」
「でも、少しは嬉しかったでしょ?」「まあな…って違うー!」
「でも、触ったのには違いは無いんですねー?」「ま、まあな…」「だったら、何か奢って下さい!」
「な、何〜!」「私は良いんですよー。この事を水月先輩に話しても…」
茜ちゃんはニヤリと笑う。
この目…マジだ!
「どうします? 答えて下さい。3、2、1、はい!」「判ったよ!」「やったー!」
こいつ、最初からこれが狙いだったな。絶対に…。
「何を奢ってもらおうかな〜?」「すいてんぷるのランチならOKだ!」
「私はそんなに安くありません!」「じゃあ…何が良いんだ?」
「すかいてんぷるの一番大きいステーキ!」「あんですと〜!」
後ろを向き、財布を取り出して中身を確かめる。
「さ、行きましょう! 行きましょう!」
茜ちゃんは俺の腕を持って、引っ張りながら歩き出す。
水月にこの事が知れる事を考えれば、安物かものだな。しかし…痛すぎるぞ、この出費。ううう…。
数日後、水月から届いた手紙の最後に
『あんた! 茜の胸を触ったらしいわねー! 覚悟しときなさいよ!』
と書かれていた。
あの出費っていったい…。殺される…確実に…。
ひゅ〜…
|