鏡と篭と鎖

コンコン…

「どうぞ…」

そういうとドアがゆっくりと開き、一人の女の子が笑顔で入って来る

「元気?」「元気だったら、こんなとこに居ないよ〜」

私は、ぷーっと頬を膨らませる。

「本当ね。ごめんごめん…」

彼女は、それを見て楽しそうに笑いながら、ベットの横にある椅子に座る

「今日はどうったの?」「どうって?」

首を傾げ、私の顔をじっと見る

「学校…」「べつに〜」

それを聞いてむっとした顔をする

「そんな、むっとしないでよ…。本当に、何もなかったのよ…」「そう…なんだ…」

ニヤッと笑い、私の顔を見る

「もしかして…橘君のことが聞きたいのかな〜?ん〜?」

『橘洋平(タチバナヨウヘイ)』学校では、有名なバスケの選手で私の憧れの人。

そして、話しているこの子は『岬恵子(ミサキケイコ)』 顔から体の作りまでまったく同じ、写し身である

彼女との出会いは、とても不思議な出会いだった...


それは、何の変哲もない日の朝のこと...

カーテンを開ける音で目を覚ますと、そこには一人の女の子が立っていた

逆光になり、顔ははっきりと見えないけど、確かにそこに立っている

「おはよう。良い天気よ〜」

そういって、大きく伸びをする。私は、恐る恐る聞いてみる

「だ、誰…?」「え!?私?」

そう言って自分を指差す。私は黙って頷く

「そっか…」

頬をポリポリとかきながら笑う

「私は『岬恵子』よろしくね♪」「え…」

その名前を聞き、驚いてしまう。だってそれは、私の名前だったのだから…

その後、彼女から話を色々と聞かされる。彼女の説明によるとこうらしい...

彼女は、ずっと私の中に居て私とともに生きていた。でも、何でそうなったかは解らないが、こうしてわかれたとのことだ

簡単に言うと、別人格がもう一人の私として存在するようになったとのこと

それから数日が過ぎ、今のように話ができるようになったのだ


「あ、そろそろ帰るね」「うん。バイバイ」

彼女は、手を振りながらドアを閉める。私はその閉まったドアをじっと見つめる

彼女は、外を自由に行動できるが、私はベットと病院の中しか動くことも出来ない…

たぶん彼女は、私の動きたいという思いが具現化した物なのかもしれない

私達は、鏡に写った姿なのに…彼女は例えるなら犬みたいな存在で、私は篭の中の鳥といったところかもしれない

いつか私もこの篭から出て、彼女のように外の世界を駆け回りたい

私の知っている世界は、病院の窓から見えるほんのわずかな世界…。ちっぽけな世界…

でも、その願いも叶わないことを私は知っている…。私は心臓に爆弾を抱えているみたいな物だから…

私が死んだ時、彼女も一緒に消えてしまうかも知れない…。でも、それはあまりにも可愛そうな話だと思う

でも、彼女と私は一心同体だから…これは、誰にも変えられない運命なのかのだから…


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