かぎられたもの

病室に入り、そっとベットに近づく。そこには、安らかに寝息をたてながら、幼馴染が眠っている

ふぅっとため息をついて、そっと病室あとにする

「あら、彼氏じゃない」「ぶっ!」

病院から出る時に、やたらと元気な看護婦さんに呼び止められる。彼女の担当看護婦の真由美さんだ

「今日も来たの?」「はい…」「そう、可愛い彼女のためだもんね〜」

真由美さんは、うんうんと一人で納得する

「あの…」「ん…?どうしたの?」「何度も言ってますが…」「愛し合ってるんです」

と耳元で囁かれる。数センチ飛び上がり、耳を押さえながらその場から離れる

今まで立っていた場所に、担当先生の花瀬が立っている

「な、何をするんですかー」

顔を赤くしながら叫ぶ

「うふふ…うぶねー」「病院では静かに…」

真由美さんはシーっと仁指を口にあてる。済みませんと言いながら、頭を下げる

「ちょうど良い所で、会ったわねー」「な、何ですか…」

後ろに二・三歩下がる

「大丈夫、とって食おうだなんて…」

花瀬先生の目が怪しく光る。見た瞬間、背筋がぞっとする

「し、失礼します…」

そう言い、玄関に向かって歩いてはずだが、距離が離れて行く


「美味しそう…」

花瀬先生は、怪しく笑う。背筋に、何か冷たい物が流れる

「先生…悪ふざけは、それくらいで…」

この病院で唯一(?)まともな看護婦の弘美さんだ。

「だって、可愛いじゃない…」

弘美さんはダンと机を叩く

「先生…」

花瀬先生は、真剣な顔になってじっとこっちを見る


数日の月日が過ぎ去る。最近は家に閉じこもり、とある物を作っている

ぼーっカレンダーを眺めていると、真由美さんが落ちて行く

何のことか判らず、目をパチクリさせる。数分後、ベランダに出て下を覗こうとした時に、呼び鈴が鳴る

ドアを開けると、先ほど落ちたはずの真由美さんが立って居る。それも、にこやかに微笑みを浮かべて

しばらく、その場で石化する

「何をやってるんですか?」「あははは…屋上から飛び降りて、一階上のベランダの下に捕まってここに来ようと…」

「普通に来て下さい…どうぞ」

麦茶の入ったコップを差し出す

「ありがとう」「で、何か用事ですか?僕…忙しいんですけど…」

ちらっと、さっきまで居た部屋を見る

「会いに来た…じゃあ、駄目?」「な…」

すばやく、壁際まで移動する

「別に、不快意味じゃないわよ。でも、して欲しいんだったら…」「結構です!」

一秒の間も空けずにキッパリ断る。真由美さんは残念そうな顔をする

「最近、来てくれないじゃない…」「忙しいですから…」「彼女、寂しがってるわよー」

「だから…彼女ないんですってばー」「ふーん…なら、ただの幼馴染を心配して、毎日のように来てたの?」

「そ、そうです…」「はい。預かり物」

真由美さんは、一つの包みを置く。それを見たあと、自分を指差す。真由美はうんと頷く

「誕生日、プレゼントかしら?ただの幼馴染が、用意するのねー」

真由美さんは、ニヤニヤと笑う

「あ、ありがとう御座います…」「どうしたしましてー」


家近くの交差点で、鞄の中をチェックする

「あ〜!」

いきなり大声をだしたので、周りの人々がこっちを見る。その視線に気がつき、顔を紅くする

さっさと、その場から立ち去る。そして、家に向かって走りだす。今日、絶対に必要な物を忘れたのだ。

あと少しで、家に着くという時、クラクションともに車がこっちに向かって来る


シャーっとカーテンが開けられ、眩しい光が入ってくる

「おはよう御座います…」「おはよう」

看護婦さんは優しく笑う

「あの…」「なぁに?」「私に、臓器を提供してくれた人って…」

そういって、自分の胸に手をあてる

「ごめんなさい…」「提供者のことは、教えられないんですよね…」

看護婦さんは黙って頷く

「一つだけ答えてくれませんか?真一…真一は、どうしてますか?」

それを聞くと、看護婦さんは一瞬暗い顔をする

「元気でやってるみたいよ」「そうですか…」

この時、確信する。私に臓器を提供してくれた人は、誰かを…


後遺症もなく、無事に退院できることになる

「今まで、お世話をお掛けしました」「もう、ここに来たら駄目よー」「今度、来る時は二人よね。お腹の中に…」

真由美さんと花瀬先生は、楽しそうに笑う。会釈して病院を出る

ゆっくりと一人で歩いている時、病院の門の所に立っている人影に気が付く

その人は、ゆっくりと手を上げて笑う。駆けて行き、その人に飛びつく

その人は、私を優しく受け止めてくれる。そして、ゆっくりと顔を近づける。


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