棚からグラスを二つ取りだし、それを指の間に挟んだままシャンパンを取りに行く

テーブルの上にグラスを置き、それにシャンパンを注ぐ。そのうちの一つを手にとってじっと眺める

「天川…」

そう、ポツリと呟く


「あ〜駄目です。そこで切ったら…」「良いじゃない。それ位…」「駄目です!あとで何か問題になったら!」

天川は真剣な顔でそういい、私の顔をじっと見てくる

「じゃあ、天川が切りなさいよ。はい」

そういって、天川にナイフを渡す

「いきます……」

天川は震える手で、じっとケーキを見つめがらゆっくりとナイフを下していく

「あ、天川…」

心配になり、声をかけてみる

「ぷは〜。結構、緊張しますね…」

天川はそういってテヘヘっと笑う

「ここで良い?」「はい。そこなら均一ですから」

ナイフでケーキを切り分け、天川の皿に乗せる

「天川〜」「何ですか?文緒っち…」「コレ…飲むでしょ?」

天川にシャンパンを見せる

「え、あ、天川さん…あまり、そういった物は…」「ふーん…」

グラスを二つ持って来て、そのグラスにシャンパンを注ぎ、天川に渡す

「ですから…天川さんは…」「飲んでみなさい。美味しいわよ」「でも…」「大丈夫。ジュースみたいな物よ」

「そうですか…」

天川はじっとグラスを眺める。意を決し、上を向きながらぐっと飲み干す

「美味しい…?」

天川は目に涙をためながらこっちを見る

「あら…」「文緒っちは嘘つきです…。ジュースとも全然違うじゃないですか…」

そういったすぐ後に、天川はバタンと後ろに倒れる

「あ、天川!だ、大丈夫?」「ふにゃ〜」

天川を抱えてベットに寝かせて、濡れタオルを額に乗せる。そばに座り、天川の顔を眺めながらふっと笑う


「天川…もう、会えないんだよね…」

グラスを持ったまま、膝を抱え込むように丸くなる。そんな時、すっと後ろから誰かに抱き締められる感じがした

一言…耳に聞こえて来る

『文緒っち…』

慌てて顔をあげて辺りを見渡すが、私以外には誰も居ない。私の体に残る、天川の温もり

「天川…」『文緒っち…メリークリスマス』「メリークリスマス…天川」

そう呟きながら、置いてあるグラスに自分のグラスをぶつける



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