秘密の花園 第七章

メモをテーブルの上に置き、そっと家から出る

「俺の役目は終わりだな…」

そういって、寂しげについさっきまで居た家を見詰める


「私のこと…軽蔑したでしょ…」「聞かなくても判るだろ?」

美穂に背を向けたままそういう

「うん…でもね…」「うるせぇ!お前の話なんぞ、聞きたくない!」

そういって、キッと美穂を睨み付ける

「てめぇに判るか?俺は、人間じゃない…ましてや、亜人でもない…そう聞かされた俺の気持ちが…」

美穂は黙ったまま俯く

「判るわけないよな〜。てめぇは人間なんだからな〜。どうせ、ガキの頃の記憶だって…」

「違う!それは…」「偽りじゃねーって言うのか?なら、根拠を言ってみろよ…。偽りじゃないって…」

美穂は、黙ったまま俯く

「根拠なんて、あるわけないよな」『根拠ならある!』

美穂の後ろから瑞希が姿を現す

『根拠は私!』「笑わせるな〜。お前が?馬鹿か?」『これ…覚えてるよね?』

瑞希は一つのネックレスを差し出す

『知ってるよね〜。ううん…知らないはずないよね!』「それがどうした?それで、何の証明に…」

『私は覚えてる…忍がこれを大事にしてたこと、そして…あの日に、私に託したことも…』

そういって、瑞希は優しく俺を抱きしめる

『大丈夫だよ…忍は忍だよ。誰が何て言っても、ここに居るのは矢島忍だから…』

瑞希はそっと俺の頭を撫でる

『それに、一緒にすごした時間も現実だから。安心して良いよ…』

それを聞くと、自然と涙が零れ落ちる。瑞希は、美穂の方を向いてニコッと笑う


『私は、今日でこの家を出て行く。忍君、君はここに住み続けて…』

クシャッとメモを握りつぶして、ゴミ箱に荒々しく放り込む。部屋に行き、ベットへと倒れこむ

しばらく、ボーっと天井を眺める。何もする気がおきずに、ただボーっと天井を眺めて過ごしている時に

にゅっと瑞希の顔が目の前に現れる

「うわ〜!」「どうしたのかな〜?そんな難しい顔をして〜?」

瑞希はニヤニヤと笑う

「別に…関係ねーよ…」

そういって壁側を向く。瑞希は、器用に俺と壁の隙間に座る。ムッとし、反対側を向くが強制的に戻される

「私の顔を見るの嫌?」「別に…嫌って訳じゃないけど…」

お前の顔を見てると、美穂を思い出すだけだよ…なんて、言えるかよ…馬鹿が

「また一緒だね♪」「そうだな…。しかし、いい加減に成仏しろよ」「それは無理!」

瑞希はそうキッパリ言い切る

「無理って…まさか…まだ未練があるからとか?」

瑞希は、首を横に振る

「行き方が判らないとか?」

瑞希は、首を横に振る。瑞希はふっと笑い、指を一本上に突き上げる

「発表します!私こと、榊瑞希は復活しました〜!」

瑞希がそういうと、何処からともなくファンファーレが鳴りだす

「な、何だ…?」「細かいことを気にしたら駄目だよ〜」

瑞希は、怪しげに笑いながらこっちに近づいて来る。逃げようとするが、腕を捕まれてそのままベットに押し倒される

「覚えてる〜?や・く・そ・く♪」

瑞希は、色っぽくそういう

「約束…。そんなのしたか?」

きょとんとした顔で瑞希を見ると、瑞希は仕方がないな〜といった顔をして、指をパチンと鳴らす

すると、何処からともなく『後で好きなだけしてやるから…今は言うことを聞け!』と俺の声が聞こえてくる

辺りを見渡すが、やはり音響設備は無い

「思い出した♪」「いや…あれはだなー」

瑞希はにーっと笑い、左手で器用に両手を縛りながら、左手でベルトを外す

「いただきま〜す!」

カプッ!


「まったく、嘘くさい話だな…」「でも、現にここに居るでしょ?それが証拠だよ〜」

瑞希は自分を指差しながら笑う

「よく、肉体の一部が残ってよな…」「無いよ。そんなの…」「はい!?」「ちょっと、美穂に協力してもらったの」

協力って、髪の毛一本くらいか?確かに、双子だからDNAは同じだろうし…問題ないか

「要するに、肉体だけ作ってその中に入ったってことなんだな?」「うん。さすがに、魂までは無理だよ…」

それも…そうか

うんうんと頷いて顔をを上げた時、見てはならない物を見てしまう

「瑞希…」「どうしたの?」

瑞希は首をかしげる。黙って瑞希の後ろを指差す。すると、瑞希はゆっくりと後ろを振り返る

そこには、笑顔の美穂が立っており、底知れぬ殺気を感じさせる

「瑞希ちゃん…ちょーっと、聞きたいんだけど〜。ここで何をしてるのかしら〜?」

「な、何って…忍に報告をね…」「ふーん…報告ね〜」「あは…あははは…」

そのあと、瑞希は美穂に耳を引っ張られながら消えて行く。その光景を合掌しながら見送る


久しぶりの学校だな…。変化無しか〜

ドドドド……

「ん?」

前から徹が、砂煙をたてながら走って来る。数メートル手前でダイブするがすっと横に避ける

今度は、着地と同時に再度飛びつこうとしたので、その手を掴んで遠くに投げ飛ばす

だが、猫なだけあって宙でクルリンと回り目の前に着地して、抱きつこうとするので頭を抑える

「お前…しつこいぞ…」

呆れ顔で徹を見る

「言っとくが、俺は男と抱き合う趣味は持ってないから…」

徹はそれを聞き、ムッとした顔をする。俺の手を掴んで自分の胸に押し当てる

「どう?」

ふにゅ…ふにゅ…

柔らかい…マシュマロみたいだ

「私が、女だって判ったでしょ?」「ふん…わきゃった…。『はぁ…ええわ〜』」

祝福に浸っていると、後頭部に鞄がクリティカルヒットされ、うつ伏せに倒れる

それと同時に、瑞希が天から降って来て、背中を踏みつける。

「うぎゃ〜!」

パタ…

「忍…朝から、何をしてるの〜?」「美穂…え!?もしかして…瑞希なの?」「うん。おはよう」

「どうして…?」「女は、謎の数だけ可愛いんだよ。さてと…」

瑞希は、完全にのびている俺を引っ張りながら、校舎と反対方向に向かって走りだす

「忍ちゃんを何処に連れてくのよ〜!」「私達のバージンまで〜♪」

「な、何ですって〜!待ちなさ〜い!」「やーだよ〜♪」

瑞希は、徹を挑発する。そして、二人は音速を超える

「矢島く〜ん。HRまでには教室に入らないと、留年させますよ〜」

END


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